09 思い出話
龍神洞。それは龍神の膨大な魔力を浴びて成長したダンジョンと複雑に絡み合った大洞窟なのだとか。
故に、龍神と対話する巫女はダンジョンを突破する戦闘力を必要とします。
そして対話能力、魔力への耐性、戦闘力の三つを総合し、最も優れた者が姫巫女に選ばれるのだとか。
女性に限られるのは、どうやら対話に必要なスキル『精霊言語』が女性の方が強い効果を持って生まれるからだそうです。
逆に、男性は『魔力吸収』のスキルに優れるのだとか。故に女性は巫女、男性は戦士として育てられ、戦闘能力や魔力への耐性の足りない巫女は戦士の護衛を伴って龍神との対話に向かうそうです。
今回、私はシャーリーさんを伴い龍神洞の最深部、龍神が住まう場所へと向かっています。
これはちょうど、巫女と護衛の戦士の構図に被るものがあります。
さらに言えば、シャーリーさんは魔力への耐性は全くありません。私が『詛泥』のスキルで薄い球状の膜を展開し、龍神の魔力を吸収しなければ、ここに立っているだけで苦しい思いをすることになります。
より一層、気合が入るというものです。
「なんだか、懐かしい感じがします」
「懐かしい、ですか?」
「はい。まだ私が、冒険者ギルドの受付嬢だった頃みたいな感じが」
私が首を傾げると、シャーリーさんはふふっと笑ってから続けて語ります。
「覚えてませんか? ずっと昔、私が不良冒険者に付き纏われそうになった時の話です」
言われてから、そういえばそんな出来事もあった、と思い出します。
あれはまだシャーリーさんが私の専属受付嬢になる少し前の出来事でしょうか。
薬草の納品を終えた後、ギルドを出た私と入れ違いで雰囲気の妙な男がギルドに入っていくのを見かけたのです。
それを不審に思い、念のためにと戻ってみれば、シャーリーさんが強引なナンパを受けていたのでしたね。
「雄一さんが間に入ってくれて、そのまま相手を制圧してくれたんです」
「そんなこともありましたね」
「あの時の背中は、とても頼もしく見えましたよ」
言って、シャーリーさんは私の背中を撫でるように触ります。
なるほど、立ち位置やシャーリーさんを守る立ち回りから、当時のことを思い返したというわけですね。
「思えばあの頃から、雄一さんは自分をよく見てくれていたんですね」
「あの時は、偶然みたいなものですよ」
「そんなこと言って、なんだかんだで周りに気を配っているのは分かってますから!」
ポン、と私の背中を叩くシャーリーさん。
「ずっと、いつもいつでも、私を大切にしてくれていた雄一さん。そんな貴方だから、私は好きになったんですね」
言って、そのまま私の背中に抱きついてきます。
「これからも、よろしくおねがいします」
「ええ。こちらこそ」
シャーリーさんの体温を感じつつ、龍神洞を進みます。
「まだ駆け出しの冒険者だった頃から優しかったシャーリーさん。そんな貴女だから好ましく思っているんです」
私が答えを返すと、シャーリーさんはより強い力で抱きついて来るのでした。





