07 母の懇願
夕食の時間となり、四人で食卓を囲み、食事を済ませます。
突然の来訪であったにも関わらず、シエラさんは随分と張り切って料理をしてくれたようで、集落の食事とは思えないような豪華な料理が並んでいました。
特に、シャーリーさんがよく食べてくれることが嬉しいようで、皿が空になるとすぐにおかわりは要らないか、と訊いていました。
そんなシエラさんの様子に困りながらも、シャーリーさんは嬉しそうにおかわりをお願いしていました。
そうして明るい雰囲気で夕食を終えた後。シャーリーさんが湯で身を清める為に席を外し、サヴァンさんも考えることがあるのか、外へと出てしまい、私とシエラさんの二人だけが残されました。
話を聞くいい機会だと思っていると、シエラさんの方から口を開きます。
「雄一さん。娘を、よろしくお願いします」
言って、シエラさんは頭を下げます。
「私たちでは、あの子を幸せにしてあげることが出来ませんでした。きっと、里に居たままではずっと変わらなかったでしょう。それが、あの子があんなにも笑うようになって。きっと、雄一さんのお陰なのだと思います」
何かに縋るような声で、シエラさんは言います。
「どうか、あの子を。シャーリーを幸せにして下さい」
深く、これ以上無いぐらい腰を折って頭を下げるシエラさん。
「どうか、頭を上げてください」
私は、シエラさんの願いに答えます。
「当然、シャーリーさんは幸せにします。私が必ず、彼女を万難から守ります。ですからお願いなど不要です」
「ありがとう、ございます」
私が言うと、ようやくシエラさんは頭を上げました。
「ただ、一ついいでしょうか」
私は続けて、気になっていたことを口にします。
「シャーリーさんの幸せは、そのあり方は、決して一つだけではありません。私だけ居れば良いというものでもありません」
今度は、私が頭を下げます。
「なので、改めてシエラさんにも、シャーリーさんの幸せの為に必要なことを考えていただけませんか?」
私が言うと、シエラさんは顔を顰めます。
「私では、駄目なんです。あの子は特別なんです。あの子のスキル『精霊眼』は、きっと人と人が、あるいはもっと大きな括りで、互いに分かり合う為の力なんです。決して落ちこぼれなんかじゃない。なのに私は、あの子に自信を持たせてあげることが出来なかった」
言って、シエラさんは懺悔するように言います。
「あの子を、よく笑う子に育てられなかった。私は駄目な母親です」
「本当に、そうでしょうか」
シエラさんの言葉に、私は疑問を投げかけます。
「シャーリーさんの幸せに必要なのは『精霊眼』ですか? 私は違うと思います」
私の言葉に、シエラさんは呆けたような表情で耳を傾けます。
「今日の食卓で、シャーリーさんは笑っていました。それは『精霊眼』があるからでも、私が彼女を守っているからでもなかったはずです。その理由を、そしてだからこそ分かる、シャーリーさんの幸せに必要なものを、改めて考えて頂けませんか?」
その言葉に、俯いてシエラさんは答えます。
「はい、少し、考えてみようと思います」
消え入るような声で、しかしシャーリーさんの為に力を振り絞って、シエラさんは決断してくれました。
これ以上の干渉は、邪魔なだけでしょう。





