01 里への旅路
乙木商事の長距離輸送用車両を借りて、龍の里へと向かいます。
その道中で、シャーリーさんから詳細な話を聞き出しました。
「龍神様と会話する為に必要なスキルは『精霊言語』といって、元々は精霊や神様に類する存在が私達とコミュニケーションを取る為に使っているとされる言葉です。精霊言語は言葉ではなく、意味そのものが伝わる言語と言われていて、相手と自分がどんな言葉を発していても、正確に伝えたいことがそのまま伝わるそうです」
聞いてみれば、龍の里の民が使うスキルはかなり特殊なもののようです。
「そして、私が持っているスキルは『精霊眼』。意味そのもので情報のやり取りをする、精霊の性質をそのまま発動できるスキルで、精霊言語よりも広い範囲で意味そのものが伝わり、私の近くに居る人も、私を仲介するような形で精霊言語と同じ力を発揮出来ます」
「それは、つまりシャーリーさんのスキルは精霊言語の上位スキルということでしょうか?」
「かもしれません。龍の里でも初めて見るスキルだったそうなので。ただ、私はもう一つのスキルがありませんでした。なので、上位スキルであったとしてもあまり意味の無いことです」
普段の生活では役に立つんですけどね、と苦笑するシャーリーさん。
「龍の里の民が持つもう一つのスキルは『魔力吸収』。周囲の魔力を吸収して、自分自身のものとして蓄えるスキルです。龍の里の民はこのスキルのお陰で、龍神様の魔力から守られ、同時に沢山の魔力を蓄え、精霊言語の発動訓練をたくさんこなすことが出来ます。私はこのスキルが無かったので、龍神様の魔力に耐えられませんでした。里を追放される一番の理由になりました」
「精霊言語がそんなにたくさんの魔力を必要とするなら、精霊眼も発動させるのは大変なのでは?」
「それが、精霊眼にはほとんど魔力を使わないんです。生まれつきの身体の性質に近いといいますか、基本的には自然に、負担なく発動できます。誰かの仲介をする時は少しだけ魔力を使いますけど」
聞けば聞くほど、シャーリーさんの持つスキルは精霊言語の上位スキルであるように感じてしまいます。
生まれが龍の里でなければ、あるいは龍神から漏れ出す魔力に耐えられるスキルがあれば。話は大きく変わっていたのでしょう。
たらればの話に意味はありません。が、第三者が無責任に感想を抱くとすれば、もったいない、の一言に尽きるでしょう。
「あ、ほら! 雄一さん、見えてきました!」
助手席で興奮した様子で指差すシャーリーさんの視線の先には、大きな山岳がありました。
ルーンガルド王国のほぼ北限に広がる山岳地帯。その一角に、龍の里は存在しているそうです。
ただし、龍神の魔力があらゆる生物に自然と忌避感を抱かせる為、環境に適応した生物以外は自然とたどり着くことがほぼあり得ないのだとか。
ここに至るには、場所を知っている人物による案内を受けるか、あるいは龍神の魔力に抵抗できるだけの力を持つかをする必要があります。
幸い、私たちはその両方を兼ね備えている為、里の発見には苦労しませんでした。
山岳の麓に広がる、閑散とした森。その一部分は切り開かれており、里へと続く道が整備されています。
ルーンガルド王国の上層部が訪れることもあるため、整備されているのでしょう。
馬車が通るに十分な大きさがあるため、乙木商事の輸送車両も通行可能なはずです。
「このまま、集落までまっすぐ進みましょう」
「はい! 里の人たちとの交渉になったら、任せてください!」
力こぶを作るような仕草でやる気を見せてくれるシャーリーさんに、つい笑みがこぼれてしまいます。
こんな素敵な女性に、妻に不快な思いをさせたくありません。
交渉の状況次第では、私が前に出るべきでしょうね。
密かに覚悟を決めた上で、輸送車両を走らせます。





