07 シャーリーの過去
シュリ君と松里家君との通信を終え、私は妻たちを集めて話をします。
召喚された勇者が魔物のように進化をして、異形の姿になってしまう可能性があること。そして、それに関連する情報を知っているかもしれない、最古の魔物である龍神様に会いに行くこと。
これらを告げると、全員が複雑そうな表情をしていました。
が、その中でも一人。シャーリーさんだけが、意を決したような表情を浮かべ、口を開きます。
「雄一さん。実は今まで黙っていたことがあります」
「はい」
私は、シャーリーさんと向かい合います。
「実は。私、その龍神様を祀る、龍の里の出身なんです」
その言葉に全員が驚きます。
中でも、マルクリーヌさんが驚きのあまり疑問を投げかけました。
「龍の里の民は、龍神と対話する為に特化したスキルを継承し続ける為、里から外に出ることは無いと聞いている。それなのに、シャーリー殿はその龍の里出身なのか?」
「はい。私は、里一番の出来損ないでしたから」
シャーリーさんは、悲しげに顔を俯向け、話します。
「龍の里の民は、みんな龍神様と対話をする為のスキルと、龍神様から溢れる膨大な魔力から身を守るスキルを持って生まれます。ですが私は、対話をする為のスキルしか持たずに生まれました」
「それは、そうか」
「はい。物心付いた頃には、もう龍神様の魔力に酔って、まともに暮らせない状態でした」
想像だにしないシャーリーさんの過去に、私たちは全員言葉を失います。
「龍の里の姫巫女としての努めも果たせない上に、身体も弱くては里に置いておけない。そう判断した大人によって、私は里から追放されることになりました。それからは紆余曲折ありましたが、龍神様と対話するスキルを応用すると、難解な内容の書籍や書類でも、その意味や意図をある程度理解できる、ということが分かりまして。それを活かして、冒険者ギルドの受付嬢として働くようになったんです」
そうして、私と出会ったというわけですね。
「なるほど。苦労されていたんですね」
「いえ。里から追放されたと言っても、お陰で今は魔力に酔ったりすることもなく健康に暮らせていますから。これで良かったんだと思います」
言うと、シャーリーさんは顔を上げて私に提案します。
「それよりも雄一さん。こんな私でも、一応は龍の里と縁があります。普通に訪れても門前払いを受けるでしょうけど、私が一緒なら、少なくとも話ぐらいは聞いてくれると思います」
「それは、いいのですか?」
ありがたい申し出ですが、シャーリーさんにとっては苦しい選択のはずです。
例え恨みが無いのだとしても、かつて追い出された故郷ともなれば、心境は千々に乱れることでしょう。
「はい。龍神様と雄一さんが会わなければいけないのなら。私に出来る精一杯のお手伝いをしたいんです!」
決意を秘めた目で、シャーリーさんは言います。
心境としてはシャーリーさんを大変な目に遭わせる可能性がある以上、心苦しいのですが。
しかし、やはり妻の決意を否定するわけにもいきません。
「分かりました。お願いできますか?」
「はいっ! お任せ下さい、雄一さんっ!」
こうして、龍の里への案内を、シャーリーさんに任せることとなりました。
ここまでで第十一章は終わりです。
面白かった、という方は、よろしければ評価ポイント、いいねボタンの方を押して頂ければ幸いです。
次は第十二章になります。
まだ書き貯めた分があるので、投稿は続きます。
また、現在Narrative Worksの新作が同時に投稿されています。
『異世界チーレム転生できたけど、ヒロインが全員ギャグ漫画の世界の登場人物なんだが?』という作品です。
もし興味がありましたら、ページ下部のリンクから読みに行って頂けると幸いです。





