06 解剖の結果
翌日、連絡を受けたため、詳細を聞く為にシュリ君と松里家君に連絡を取ります。
乙木商事の技術の粋を集めて作った長距離通信機を使い、ルーンガルド王国の研究所の二人に繋ぎます。
『ひさしぶり~、オトギン』
『お久しぶりです、乙木さん』
「こちらこそ、お久しぶりです」
内藤の遺体の分析を任せて、私たちだけで大森林自治区に来てしまいましたからね。二人とは声だけとはいえ、本当に終戦直後以来になります。
『さっそくだけど、分析結果について報告するね』
「はい、よろしくお願いします」
いよいよ、待ちに待った分析結果が知れるとなると緊張してきますね。
『結論から言うと、やっぱり召喚者はほぼ百パーセントの確率で人間じゃないね』
「やはり、ですか」
予感はしていましたが、改めて断言されるとやはり動揺してしまいますね。
『解剖した結果、内蔵や体組織、骨格までも形だけは人間そのものだったけど、血液や細胞を分析に掛けたらやっぱりどこも厳密には人間のものとは違うっていう結果が得られたからね。特に、死後もまるで生きているかのように様々な耐性が残り続けるっていう特性は、魔物のものにそっくりだった』
「ホムンクルス技術等、他の可能性はどうですか?」
『無いね。ボク自身がホムンクルスの身体だから分かるけど、体組織そのものはほぼ人間と変わらないのがホムンクルス。他にもメッティから貰った類似技術のデータと比較しても、やっぱり一番近いのは魔物だったよ』
ちなみに、メッティとはメティドバンの愛称だそうです。
そして、メティドバンも少量の血液だけを預かって、こちらで簡易分析を行ってくれたのですが、その結果もメティドバンの知る人造技術とは一致しないというものでした。
『で、ここからが一番大事なところ。体組織がほぼ魔物のものと同等だということは、魔物と同じような特性があっても不思議じゃない』
「具体的には?」
『今、一番危惧してるのは進化だね。魔物は環境や経験によって、世代交代を経ずに急激な進化を果たすことがある。もしかしたら、召喚された勇者たちにも同じことが起こるんじゃないか、ってね』
それは、つまり。
「我々は、ある日突然人から逸脱した化け物に変わってしまう可能性もある、ということですね?」
『否定はしないよ。もちろん、進化自体が限られた魔物にのみ見られる現象だから、そこまで高い可能性では無いけど。起こったら困る問題としては筆頭になっちゃうね』
正直、想像以上にショッキングな内容ですね。
「シュリ君。このことは内密にお願いします」
『そうだね。確定したわけでもない情報で、召喚者を無意味に怯えさせる必要は無いとボクも思うよ』
知られたら、間違いなく大きな混乱が起こるでしょう。
少なくとも対処方法を考えてからでないと、伝えても無意味な騒動に発展するだけです。
『一応、本当にそんな可能性があるのかどうか、まっつんの体組織を培養して比較実験してるところ。でもまあ、進化する魔物とそうでない魔物の違いについての先行研究はあるんだけど、正直信憑性が微妙なものが多い。ほぼ一からの研究になっちゃうから、ちょっと時間はかかるかもね』
「それでも、調べて頂けるだけありがたいです」
私には手を出せない領域の話なので、つくづくシュリ君が味方でいてくれて良かったと思います。
『で、こっちはこっちで研究を進めはするんだけど、それ以外にも情報収集する手段はあると思うんだよね』
「それ以外、ですか?」
『うん。魔物の進化について知りたいなら、魔物に聞けばいいんだよ』
シュリ君はそう言って、私にやって欲しいことを告げます。
『現在生存している最古の魔物と言われている、龍の里の龍神様。彼なら魔物の進化について。あるいは、過去に存在していた勇者についての知識があるかもしれない。オトギンには、その龍神様のところを訪ねて聞き取り調査をして欲しいんだ』
どうやら、私にも出来ることがあるようです。





