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31 追放少女




 私はシャーリーさんから今日の報酬を頂いた後、不動産屋へと向かいました。

 そして軽く話をしたところで、冒険者ギルドへと逆戻りです。


 なんでも、私の持っている金額なら賃貸ではなく土地ごと買える物件もあるのだとか。そして土地ごと購入となる場合、ギルドカードのような簡易の身分証明では無理らしいのです。

 そこで身分証明の出来る書類をギルドで発行してもらうため、引き返してきたというわけです。

 時刻は九時。既に混雑が始まっているでしょう。



 私がギルドに向かうと、やはり混雑していました。仕方なく私も列に並び、なんとか受付に辿り着きます。

 そして身分書類の証明が必要なので発行して欲しい、という旨を伝えると、少し時間がかかるので待って欲しいと言われました。


 こうして、私は書類発行までの時間をギルドの片隅でソファに座って待つこととなります。




 しばらく、ぼんやりと人の流れを眺めていました。

 やがて混雑が少しずつ解消され始めた時、ギルドにまた誰かが入ってくる音が聞こえました。


 特に何というわけでもなく、顔を向けます。


「おや」


 つい、声を出してしまいます。


 そこには見知った顔がありました。日焼けサロンか何かで焼いたらしい肌。脱色して作ったわざとらしいキンキンの金髪。そして、昔は柔和で可愛らしかったのに、鋭く尖ってしまった目付き。


 美樹本有咲。六ツ賀谷高校の生徒で、私を勇者召喚に巻き込んだ張本人。そして、私の姪っ子でもあります。


 しかし妙な話です。勇者は本来、王宮に手厚く保護されています。いや、保護という名目で、監視され拘束されているはずです。

 そんな勇者の一員が、どうしてギルドなんかに顔を出すのでしょう。しかもたった一人。良く見れば、とても不安げで緊張した表情をしています。


 私はそのまま、有咲さんを目で追います。何となく、何をしに来たのか気になったのです。


 しばらく有咲さんはうろうろとギルド内をうろついた後、意を決したように受付へと続く列に並びます。

 少しずつ、列が進んでいきます。その間もずっと不安そうな顔をしています。


 やがて十分ほどかけて、有咲さんは受付に到着しました。ここからでは何を話しているか聞こえません。が、内容が気になってしまいます。姪っ子ということもあって、つい世話を焼きたくなってしまいますね。しかも不安げに一人でいればなおさらです。


 そこで私は、スキル『聞き耳』を発動することにしました。

 このスキルはダンジョンと呼ばれる場所に出現する『ウォール・ミミアリィ』という魔物のスキルです。壁に擬態し、周囲の音に聞き耳を立て、油断している生き物の上に倒れ込んで押しつぶし攻撃を仕掛けてきます。冗談みたいな魔物ですが、実在するらしいです。


 そんな魔物のスキル『聞き耳』は、ただ耳が良くなるだけのスキルではありません。集中すれば、物音を聞き分け、特にしっかり聞き取りたい場所の音を聞き分けることも出来ます。

 正に、今の状況下で重宝するスキルです。

 ただし、発動条件は身動ぎしないこと。それだけなので人間の私でも発動できるのですが、一切動かないようにしなければいけないのは少し大変です。判定がシビアで、ちょっとした動きでも音が聞こえなくなり、途切れ途切れになってしまうのです。


 ともかく、今はこの聞き耳スキルに頼りましょう。


「冒険者になれば生活できるって聞いたんだけど」


 有咲さんが、受付嬢に向けてぶっきらぼうに言います。どうやら、冒険者になりたがっているようです。

 しかし、冒険者になったからといって、生活できるわけではありません。言い方が悪いので、受付嬢さんに軽く訂正されます。


「冒険者として当ギルドでご登録いただければ、依頼の達成と引き換えで現金の報酬をお渡しすることが出来ます。また、ギルドに登録致しますと発行される冒険者証明証、通称ギルドカードは簡単な身分証明証としてもご利用いただけます。宿や賃貸のご利用でも、身分証として通用しますので、ご提示いただければ大丈夫です」


 賃貸は分かりますが、宿でもギルドカードの提示が必要なのですね。初めて知りました。今まで寝ずに過ごしてきましたから、一度も利用していないので気づきませんでした。

 ちなみに身体の汚れを落とすため、大衆浴場は利用したことがあります。普段は森の泉で水浴びだけですが、たまには温まるのも悪くはありません。


「よくわかんないけど、なんか仕事してお金貰えるんでしょ? じゃあ登録してよ」

「かしこまりました。では、こちらの書類にご記入ください」


 どうやら有咲さんは冒険者になるようです。これで仲間ですね。仲良くやっていきたいものです。不良少女でも、姪っ子ですし。有咲さん可愛いですし。


 有咲さんは書類に記入を済ませると、受付嬢さんに渡します。


「これでいい?」

「いくつかお聞きしたいことがございますが、よろしかったでしょうか?」

「いいよ、何?」

「ご家族がいらっしゃらない、というのはどういうことでしょうか? あと、自宅部分に記入が無いようですが」

「親はいるけど、今は頼れない。家が無いのは、住んでるところを追い出されたから。仕方ないじゃん」


 おや、重要なことを言っていますね。

 どうやら有咲さんは、王宮から追い出されたようです。勇者は勇者で、なかなか大変な目に遭っているのでしょう。


 しかし王宮はひどいことをしますね。有咲さんのような子供を追い出すなんて。私と違って一人で生きる術も知らない子供です。路頭に迷い、毎日お腹を空かせる日々を過ごすかも知れません。

 それはよくありませんね。子供は、できれば毎日お腹いっぱいご飯を食べるべきです。



 そうして、私の中で一つの考えが固まりつつありました。

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[良い点] 漫画から来ました 楽しく読ませていただいてます [気になる点] そして『身分書類の証明』が必要なので発行して欲しい、という旨を伝えると、少し時間がかかるので待って欲しいと言われました。 …
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