02 三馬鹿
開発中の土地を見回った後は、すでに施設の建築の始まっている場所へと視察に向かいました。
ここでは力作業が多いため、警備部門から一部の人員が出向しています。
そして同時に、内藤組との戦争で捕虜となったとある召喚者三人もここで働いています。
また、監視の意味で実力のあるジョアンさんが三人の指揮をしています。
今回は、その様子を見る為もあってここに来ました。
「ほーら、次はあっちの資材をここまで運んできて! 三人とも、休むのはまだ早いからね!」
声を上げて、三人を指揮するジョアンさんが真っ先に見つかりました。
そして近くには、視察の目的でもある三人の召喚者がぐったりとしています。
「ち、ちくしょう。人使いが荒すぎるっつうの」
一人は野村浩一君。肩で息をしながら、倒れ伏した状態で悪態をついています。
「ここで立ち上がらなきゃ、漢じゃねぇっ」
もう一人は神崎竜也君。野村君と同様に肩で息をしていますが、しっかりと立ち上がっています。
「はぁ、せめて指導者が屈強な男性だったらなぁ」
最後の一人は加藤淳也君。膝をついた状態で、他の二人と同様に肩で息をしています。が、意識は全く関係ない方向へと逸れている様子。
そんな三人とジョアンさんの方へと私は歩み寄ります。
「あっ、ダーリンっ!」
そして真っ先に私のことに気づいたジョアンさんが飛びつくような勢いで抱きついて来ます。
それを受け止めると、そのままジョアンさんが私の頬に頬ずりしてきます。
「今日はどうしたの? もしかして、俺に会いに?」
「それももちろんありますが、そこの三人の様子を見ていこうと思いまして」
私は言うと、ちゃっかりお姫様抱っこを求めてくるジョアンさんを抱きかかえたまま、三人の方へと向き直ります。
「調子はどうですか、皆さん」
「こんなもん付けてんだ、最悪に決まってんだろ」
野村君が真っ先に言い返しながら見せて来たのは、手首に付いているバングルのようなもの。
実はこれ、私が作った特製のデバフバングル。これを付けることで彼らのチートスキルと身体能力を抑制。急に暴れられてもある程度安全に対処出来るようになっています。
この影響もあって、彼らはちょっとした力仕事をするだけで疲れ果てていたというわけです。
「捕虜である以上、仕方のない処理だと思って下さい。皆さんが真面目に働いていれば、いずれ取れますよ」
「そうあって欲しいもんだな」
皮肉っぽく言いながら、加藤君が言い返して来ます。
しかし神崎君が何か言いたげな様子で、加藤君を見ます。
「どうしましたか?」
「いや、なんでも」
中途半端に否定してから、神崎君は首を横に振ります。
「駄目だな、黙ってるってのも筋じゃねえし。おっさん、コイツら態度は悪いけど、俺も含めて感謝してんだよ」
「おい、竜也!」
口を開いた神崎君を、野村君が制止しようとします。
しかし、構わずに神崎君が話を続けます。
「正直、今の待遇が最高だとは思わねえ。けど、俺たち戦争に加担して、結構な被害を出したんだろ? だったら、最悪殺されたって文句は言えねぇ。それが、コイツを付けてりゃあ働くだけで許してくれるんだから、本当は感謝してんだよ」
神崎君の言葉を、加藤君と野村君は否定しません。バツが悪そうにしていますが、神崎君の意見には同意しているようでした。
「だから、俺らは俺らなりにやり直す。ちゃんと働いて、真人間になれるって証明してやるよ。だからまあ、こいつら文句ばっか言ってっけど、許してくんねーかな」
「許すも何も、別に責めてはいませんよ。君たちは捕虜になった。だから私は監視している。それ以上でも、以下でもありません」
「けっ、めんどくせーおっさんだな」
私が言うと、最後に野村君が悪態をつきます。
が、その言葉に、言うほどの悪意が乗っていないことぐらいは、私にも分かりました。
「さて。この様子なら、ジョアンさんに任せて大丈夫そうですね。これからもよろしくお願いします、ジョアンさん」
「うんっ! まかせてダーリン!」
ジョアンさんを下ろすと、私の頬にキスをしてから離れて行きます。
「さあ、三人とも! 十分休憩出来たでしょ? 次の仕事だよ!」
ジョアンさんの言葉に、三人同時に、三者三様の表情で嫌そうにしているのが、なんだか少し面白くて、私は笑ってしまいます。
それを最後に、この現場を後にしました。





