23 戦後処理
内藤の死後。スキル『完全支配』の効果は失われ、戦争を強制されていた全ての人々は開放されました。
バロメッツ公国だけではなく、アデルタンド王国、サダルカーン王国の方面からも、防衛戦が終結したとの報告が上がってきます。
こうして三国とルーンガルド王国の戦争は終わりを迎えました。
ですが、内藤が残した傷跡は大きいものでした。
戦争による物資の消耗。兵士として亡くなった人々。三国は例外なく消耗しており、戦争が終わったからと言って平和な日々がすぐさま戻っては来ません。
そこで、乙木商事は戦後復興に協力することになりました。
三国への乙木商事の展開が出来るため、こちら側にも悪い話ではありません。支援金や労働力は相当に費やすことになりますが、見返りとしては十分すぎるものが手に入ります。
無事復興すれば、乙木商事は四カ国を股にかける大企業に成長します。そうなれば、今までとは比べ物にならない権力、資産、武力が手に入るでしょう。
そして戦後復興の後は、大森林自治区への進出もあります。乙木商事の未来は明るいと言えるでしょう。
一方で、内藤の死という形で戦争が終結したことで、少なからずショックを受けている人々が居ます。
それは、内藤のクラスメイト。召喚された勇者たちです。
これまで、彼らは一人の死者も出さずに過ごしてきました。優れたステータスにチートスキルもあり、かつ危険な戦いは金浜君達がほとんど担っていた為、幸いにも誰一人欠けることなく今までは過ごしてきました。
しかしここにきて、敵になったとはいえ、クラスメイトが死を迎えました。
それによって、彼らは否応なしに、自分たちが暴力的な手段で死ぬかもしれない、という可能性を意識させられる羽目になりました。
これまで以上に、彼らは自分たちの未来についてよく考えることになるでしょう。
その選択次第では、乙木商事の社員として、争いの場から遠ざけ、保護する人数は増えていくでしょう。
「乙木さん!」
復興支援の指示を出し、忙しくしている私のところへ、金浜君が駆け寄ってきます。
「今回は、色々とお世話になりました。乙木さんがいなければ、どれだけの被害が出ていたか想像も出来ません。本当に、ありがとうございます」
「いえいえ。当然のことをしたまでです」
そう返すと、金浜君は真剣な表情で本題に入ります。
「これからのことですが。俺たちはルーンガルド王国に帰ることになりました。復興支援を手伝えなくなります」
「まあ、それは仕方ありませんよ。君たちは、ルーンガルド王国にとって大事な戦力ですから。国外に出ている状況を長く続けたくはないのでしょう」
魔王軍の恐怖が未だ残っている以上、ルーンガルド王国としては仕方のないことです。
「はい。ですので、例の件ですが。乙木さんに、全て任せてしまうことになります」
「それは、当然でしょう。元より、私が全責任を負うつもりでしたので。むしろ、金浜君が関わっていない、という体裁になる方が良いぐらいです」
例の件。それは、召喚された勇者たちにはあまり聞かせるべきではない内容です。
それは、内藤の遺体を解剖し、検査、研究するという計画のこと。
以前より存在していた、勇者とは人間よりも魔物に近い存在ではないか、という仮説を証明するための実験をする予定です。
敵とはいえ、クラスメイトの遺体がそのような扱いを受けるとなると相当にショッキングでしょう。
また、実験の結果によっては、さらにショックを与えることになりかねません。
ですので、これに関しては私が勝手に、かつ秘密裏に行う予定です。
金浜君としては、おそらく私だけに罪を背負わせることに負い目があるのでしょう。
内藤に止めを刺した件もあり、かなりの負い目を感じているようです。
「すみません。では、乙木さんにお任せして、俺たちは先にルーンガルド王国に帰らせてもらいます」
「ええ。問題ありませんよ。任せて下さい」
そうして話を終え、金浜君は立ち去ってゆきます。
この様子ですと、もう一つの秘密についてはやはり告げない方が良さそうですね。
内藤を殺した時。私は明確に、自分自身の中に新たな力が芽生えるのを感じました。
それはスキル『完全支配』。内藤が所持していたスキルと、全く同じものを私が習得してしまったのです。
勇者が魔物に近い存在ではないかという仮説に加え、殺し合うことでスキルを奪うことになるという事実。
余りにも不穏で、常識からは外れた状況です。
戦いこそ終わりましたが、問題はまだまだ山積み。
これからのことを考えると、気持ちが重たくなります。
私は溜息を付いてから、まずは目の前のことから順に片付けてゆくことにしました。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
この話で十章は終了となります。
続きの投稿が再開されるまで、もう少しお待ち下さい。
また、再度の宣伝となりますが、現在本作のコミカライズ第2巻が発売中となっております。
是非そちらもお手にとってお読み頂ければと思います。





