22 決着と救済
「いいぜェッ! これだよ、コレェッ!」
内藤は興奮した様子で、再び私に向かって飛びかかってきます。
今度は私も同様に、内藤に向かって駆けつつ、拳を繰り出します。
内藤の拳を弾きながら、私の拳が内藤の顔を殴り飛ばします。
錐揉み回転をしながら吹き飛ぶ内藤。ですが、空中で体勢を立て直し、なんとか着地に成功した様子。
さらに追撃する為、私は内藤に駆け寄ります。
「楽しいなァ、おっさん! こうじゃなきゃな、殺し合いってのは! でなきゃあ、生きてる意味がねぇんだよッ!」
私は興奮した様子の内藤に拳と、そして蹴りを交えた連撃で攻撃します。
内藤はここは防御に回ったようで、全ての攻撃を耐えるように、腕を交差し、腰を落として構えます。
しかし、そんな防御の上からでも、私の攻撃は確実に内藤にダメージを与えていました。
やがて防御が崩れたところで、私は内藤の鳩尾に鋭い一撃を繰り出します。
「ゴハァッ!」
内藤は、口から血を吐きながら吹き飛んでゆきます。
城を、城壁を貫通し、市街地の建物を幾つも貫き、ようやく停止します。
それを、私と金浜君は素早く追います。
追いつくと、内藤は口から血を吐きながら、瓦礫に背を預けていました。
「カハッ。良いねェ、最高の気分だぜ」
内藤は、追いついた私を見ると、ふらふらと立ち上がります。
どうやら先程までの圧倒的な身体強化には制限時間があったらしく、身体を包み込んでいた魔力の光は消え失せています。
ダメージも相当なもので、満身創痍と言っていい状態でしょう。
「どうして。お前は、そんな状態で笑ってるんだ」
そんな内藤の姿が理解できないのか、金浜くんは苦々しい表情を浮かべて内藤に問います。
「ふん、テメェには分かんねぇよ」
内藤は、そんな金浜君の問いを拒絶するように言いました。
対して私は、内藤に向かって金浜君とは異なる言葉を投げかけます。
「私には、分かるような気がします」
金浜君が驚き、内藤は納得したような視線をこちらに向けます。
「誰にも理解されない。同じ感覚では周囲の人と一緒に生きて行けない。そんな疎外感を、私は被害妄想だとも、異常なことだとも思いません。それを満たすために、足掻くという人生もまた、一つの選択なのでしょう」
私は、自分の過去に重ねるような気持ちで語ります。
「ですが、それで他人を傷つけたり、厭世感のあまり孤独に陥るのは良くない。本当なら、埋まらないはずの空白を、忘れたり、代わりに埋めてくれる何かを見つけた方が良い。無理にでも衝動のまま生きるよりも、その方が幸せなこともあります」
「なんだよ、おっさん。テメェも俺が間違ってるとでも言いたいのか?」
内藤の言葉に、私は首を横に振ります。
「やったことを、事実だけで言うなら確かに君は間違っている。ですが、元を正すなら、君に違う道を示すことの出来なかった人々が。我々大人が間違っていたのでしょう。こんな結果に至った原因は、少なくとも君だけには無い」
言うと、私はダークマター製のカランビットナイフを生み出し、構えます。
「なので責任は大人が、私が取りましょう。殺し合うことしか出来ないというのなら、そうさせてしまった私達大人が、幕を下ろします」
「そうかよ」
内藤はそれだけ言うと、私の構えに合わせ、臨戦態勢を取ります。
そして、やがてどちらからというわけでもなく。同時に私と内藤は、前へと出ます。
内藤が振るった拳に、私はすり抜けるような動きでナイフを滑り込ませ、懐に入り込みます。
そのまま、ナイフを内藤の肋骨の隙間から突き立て、正確に心臓を貫きます。
「カハッ!」
致命傷を受けた内藤は、血を吐きながら、その場に力なく倒れ込みます。
「ありがとよ、おっさん」
楽しかったぜ。と、最後の言葉は掠れて消えるかのように小さく告げられました。
赤い光の無理な身体強化は、命をも消耗して発動したスキルだったのでしょう。高いステータスを保持するにしてはあっさりと、静かに内藤は息を引き取りました。
こうして、内藤隆との戦いは終わりを告げました。





