18 内藤の理由
金浜君を認識した後、内藤の視線は私の方へと向きます。
「余計なオッサンもついてきたみてぇだが、まあいい。関係ねぇからな」
言うと、内藤は立ち上がります。
「ほら、剣を抜けよ勇者様」
挑発するかのように、笑いながら言う内藤。その表情は、どこか楽しげにも見えます。これから起こる戦いを望んでいたかのように。
「その前に内藤、聞かせてくれ」
「あぁ? 何だよ」
「どうして、こんな事をした」
金浜君が問うと、内藤は鼻で笑います。
そして、少しだけ間を置いてから口を開きます。
「お前らは、世界が何色に見える」
内藤の、唐突な意図の分からない問い掛けに、金浜君も私も口を噤みます。
どうやら回答は必要としていなかったようで、内藤はそのまま語り続けます。
「俺にはずっと灰色だった。クソッタレ共と何の刺激も無い毎日を過ごすのが苦痛だった。ここは俺の居場所じゃねぇんだって感じてた」
思わぬ形での内藤の自分語りに、金浜君と共に耳を傾けます。
「けど、そうじゃねえ瞬間もあった。殴り合いの喧嘩をしてる時がそうだった。ガキの頃から、気に入らねぇヤツとやり合う時間だけが、俺の生きる意味だった」
つまり、内藤にとっては喧嘩をすることだけが生きがいだったのでしょう。
「けどまあ、そんな時間はいつまでも続かねぇ。弱いものイジメなんかしたって何も変わらねぇ。ちゃんとした、張り合いのある敵が居なきゃあつまんねぇ。この世界に来るまでは、敵も居なくなって最悪の毎日だったよ」
この世界に来るまでは、ということはつまり。
「それが変わったのが、召喚されたあの日だ。俺が手に入れた力があれば、望めば望んだだけ敵が増える。上には上がいて、俺にとっては最高の場所だった」
レベルがあり、ステータスのあるこの世界。確かに内藤の言う、張り合いのある敵という存在には事欠かないでしょう。
「だから俺は思いついたんだ。最高に楽しい時間を過ごす為にはどうすればいいか。ヒントはあったぜ、勇者様。てめぇだよ」
「俺が?」
「そうだ。勇者様は、魔王ってやつと戦うためにいるんだろ? その魔王ってのは、世界を相手に殺し合う、最高に楽しい役割がある」
なるほど。内藤が望んでいるものが、少しだけ分かってきました。
「憧れたねぇ。俺もそうなりたいって思ったぜ! だから俺は決めたんだよ、この世界の全ての敵になって、てめぇら勇者様も含めた全員とやり合うってなァ!」
言葉通り。内藤はまさに、世界を相手に戦争をする。それ自体が目的だったのでしょう。
そうして争いの最中にいる時だけ、彼は生きているという実感を得られるのですから。
「剣を抜けよ金浜ッ! 殺し合おうぜ! この日の為に、俺は生きてきたんだからよォッ!」
内藤に煽られながらも、金浜君は冷静なまま剣を抜きます。
「お前が、救いようの無い人間だってことだけは分かった」
そして、金浜君は剣を構えて言います。
「そんな理由で、罪の無い人々を犠牲にしてきたって言うのなら。俺はお前を許すわけにはいかないッ!」
「そりゃあ嬉しいねぇ! 流石だよ、優等生の金浜君よォ!」
いよいよ、戦いが始まります。





