03 六ツ賀谷高校
昼になると、近所の高校の生徒が昼食を買いに多く訪れます。六ツ賀谷高校。私の母校でもあります。
多くの学生の買う商品をレジ打ちしていきます。
すると、不意に目の前の学生さんが話しかけてきます。
「店員さん、お疲れなんですか?」
「はい? ええと、まあ。夜勤から続けて働いてますから」
「そうなんですか。大変ですね、頑張ってください!」
女子高生に労ってもらえるのは、なかなかうれしいものですね。私は頭を下げ、ありがとうございますとだけ伝えます。そしてレジ打ちの業務に戻りました。
「もう、沙織恥ずかしいよ。そういうのやめよう?」
「えぇ、なんでぇ?」
「だって、キモいじゃんあの店員。話しかけたら、こっちまで仲間みたいじゃん」
「ちょっと雪ちゃん。言い過ぎだよ」
レジ打ちが終わると、労ってくれた女子高生は待っていた友達と合流し、そんなことを話していました。
キモいのは事実ですので、仕方ないですね。いつものことです。
その後も大量のレジ打ちを続けて、気づけば十三時。ようやく昼勤務の学生さんが出勤したので、私は退勤します。
といっても、そのままは帰れません。店内のゴミ。品出しした後の空きダンボール。廃棄になった弁当等の生ゴミ。そういったものを集め、店外のゴミ集積場に片付けます。
片付けに行くと、大抵の場合ゴミが乱雑に置かれています。ゴミの回収業者さんに迷惑なので、仕方なく整理していきます。ダンボールは綺麗に積み、ゴミは種類で分別して集めます。それぞれ別の業者さんが回収するので当然の処置です。
これでようやく帰れると思った私は、事務所に荷物を取りに戻ります。
すると、遅れてきた大学生の子が話しかけてきます。
「あの、乙木さん。店の前で学生さんがたむろってて。追い払ってもらえませんか? お客さんにもクレームをつけられちゃったので」
「なるほど」
言われて、監視カメラの映像を確かめます。確かに、店外に四人組の学生が座り込んでいます。威圧感があるので、お客さんが不快に思うのも無理はありません。
こういう時のクレームも店に入り、店の責任になるのが面倒なところです。
けれど対処しないわけにはいきません。私は覚悟を決めて、店の外へと向かいます。
「あの、お客様。あまりお店の前で休憩なさるのはおやめ頂けませんか?」
私はまたユニフォームを着直して、四人組の学生、六ツ賀谷高校の生徒らしき子達に話しかけます。
「あ? んだおっさんコラ。座ってるだけだろうが。文句あんのかコラ」
「店の前は座ってご休憩頂くための場所ではございませんので。ほかのお客様のご迷惑にもなりますから」
「あぁ? 誰が迷惑だコラ。ぶっ殺すぞ」
「テメェ調子こいてんじゃねえぞコラァ!」
四人の学生のうち、三人の男が私に向かって暴言を吐きます。そして私を取り囲んで来ます。
こうして殺害予告されるのは、コンビニ店員を続けてきて何度もありました。今さら恐れるような事態でもありません。冷静に対応します。
「申し訳ございません。お客様を優先はさせて頂いているのですが、こちらの場所は他のお客様も通ることがございますから。どうしても、座り込んでご休憩、というのはこちらとしても認めるのが難しくなってしまいまして」
「ゴタゴタうっせえんじゃコラ!」
男の一人が私の胸ぐらに掴みかかります。
先に暴力に出てもらえたら、こちらの勝ちです。映像の証拠が残るので、補導できます。このまま怒ってもらうのもアリですね。
ただ、痛いのは避けたいです。できれば納得して、退去して頂きたいのですが。
そんな時、最後の一人の声が上がります。
「――おっさんなんかイジメてんなよ、オメーら」
六ツ賀谷高校の制服を着た、女の子です。
黒く焼けた肌に金髪という、少し古く感じるスタイルの不良娘ですね。