16 金浜蛍一の覚悟
私は金浜君と共にバロメッツ公国首都へと突入し、大通りを直進します。
事前の調査どおり人気は一切なく、また罠の類も見られません。
警戒は依然継続しますが、それでも想像以上に手緩い状況に困惑してしまいます。
「金浜君は、内藤のことを詳しく知っているのですか?」
私が問うと、金浜君は首を横に振ります。
「いいえ。関係はほとんどありませんでした。何度が学校で衝突したことはありましたけど。アイツは補導されて停学処分になっていましたし。他のクラスメイトよりはマシ、というだけで、ほとんど関わりはありませんでしたよ」
「なるほど」
金浜君の意見を受けて、私も少し考えます。
「実は、有咲から内藤の人物像については事前に少しだけ聞き及んでまして」
「そうなんですか? 確かに、彼女なら他のクラスメイトよりは詳しそうですが」
「はい。有咲曰く、彼は単に暴力的、短絡的なように見えて、実際はかなり理性的だったようです」
私が言うと、金浜君は驚いたような表情を浮かべます。
「アイツが理性的、ですか?」
「ええ。と言っても、一般的な理性とは基準がかなり違っていたようです。何しろ彼は、合理的に自分と敵対する人間を作って、積極的に暴力行為に及んでいたそうですから」
「なる、ほど。そういう方面では理性を働かせていた、というわけですか」
それを本当に理性と呼ぶのかはともかく。内藤はただ無秩序に暴力をふるい、暴れていたわけではなかったそうです。
理性ある人間と同様に知識を使い、上手く立ち回り、人間関係を利用して、しかし積極的に争いを生み出していたのだとか。
「その様はまるで、喧嘩そのものが目的だったように思えた、と有咲は言っていましたよ」
まあ、それも今になって思えば、程度の話ではあるのですが。
しかし、内藤を最もよく知る人物による評価ですから、やはり信憑性は高いでしょうね。
「喧嘩そのものが目的、ですか」
苛立ちのようなものを声色に乗せながら、金浜君は呟きます。
「もしもこの戦争が、そんな理由で起こされたものだとしたら。俺は今まで以上に、内藤のことを許せなくなりそうです」
金浜君の怒り、苛立ちも理解できます。乙木商事の部隊に限れば、ここまで人的被害は無しで順調に進んできています。
が、ルーンガルド王国の兵士の中には重傷を負い、その後の人生に影響するような後遺症を残した人も少なからず居るはずです。
当然、死者も少なからず出ているでしょう。
また、敵軍でありながらも、精神支配を受けて強制的に戦わされていたバロメッツ公国の人々。そして今も国境線で戦わされているはずの、アデルタンド王国、サダルカーン王国の兵士達。
彼らも含めれば、本当に膨大な数の人間が取り返しのつかない被害を受けています。
それが内藤個人の、それもただ争いを望むという気質に由来して起こったものだとしたら。彼は相応に恨まれることになるでしょう。
と、なれば。
今回の戦争には、ある形で決着を付けなければならない可能性があります。
「金浜君。一つ聞いておきます」
「はい、何でしょうか?」
私は、覚悟を問うためにその言葉を口にします。
「君は、内藤を殺す覚悟は出来ていますか?」
その言葉に、金浜君は面食らったかのように目を見開きました。





