12 神崎竜也
「金浜君。彼とはどういう関係で?」
私が尋ねると、金浜君は苦笑いを浮かべます。
「いえ。単に俺の婚約者のことを以前から好きだったとかで逆恨みしているだけですよ」
「ああ、失恋の責任転嫁ですか」
想像以上に下らない因縁だったようです。
「ゴチャゴチャと何の話をしてんのかしらねーが、てめぇだけは絶対に許さねぇ! ぶっ殺してやるッ!」
神埼君は、興奮した様子で突撃してきます。両手に即死魔法を纏い、拳で金浜君へと殴りかかります。
ただ、当然金浜君の方が圧倒的にステータスで勝っている為、軽くあしらわれてしまいます。
「どうしましょう、乙木さん!」
「そうですねえ」
見たところ、精神支配などは関係なく、金浜君を敵視して襲って来ているようですしね。
「普通に撃退していいでしょうね」
「ですねっ!」
言うと、金浜君は剣を使わず、拳で反撃します。
勢いそのままに、素人丸出しの構えで拳を振り回す神埼君に対して、訓練を受けて体術も修めている金浜君の一撃は遥かに無駄の無い動きでした。
正確に、鳩尾に拳を叩き込みます。
「グウッ」
うめき声を上げ、その場に崩れ落ちる神埼君。
「これで終わりですね。乙木さん、拘束具を」
「いえ、まだのようですよ」
戦いは終わったと言わんばかりに、金浜君は私に拘束具の用意をするよう求めて来ましたが、どうやら神崎君の戦意はまだ薄れていないようです。
「く、クソがぁ! てめぇなんかに負けるかァッ!」
気合を入れて、どうにか立ち上がる神埼君。
これにため息を吐く金浜君。
「あのさあ神埼。どうしてここまでするんだよ?」
「うるせぇッ! あの子が言ったんだよッ! どんなことがあっても諦めねぇ、何があっても立ち上がるッ! そんな漢らしいヤツが好みだってよォッ!」
どうやら、金浜君の婚約者という女性が言っていた言葉が原因のようですね。
むしろ、その言葉があったからこそ、自分にもワンチャンスあるのでは、と勘違いをしているのでしょう。
しかし、ここはそんな勘違いを正してやるのも大人の責務というもの。
「少しいいでしょうか?」
「ああん? 何だてめえ?」
私が声を掛けると、神埼君はガンを飛ばして来ます。が、気にせず私は話を続けます。
「何があっても諦めず、立ち上がる。そんな漢らしい人間を目指しているのですよね?」
「何だよ、わりぃか?」
「いえ。悪くはないのですが、気になる点がいくつか」
私はそのまま、神崎君の勘違いを指摘していきます。
「まず、恐らくですが貴方が狙っている女性は、その条件に合致する男性を好んでいるわけではなく、そもそも好んでいる男性が既にいて、その男性の特徴を挙げただけなのではありませんか?」
「なっ!」
「それに、失恋した相手にいつまでも固執するのは、何があっても諦めないというよりは、いつまでも縋り付く迷惑で女々しい行為であり、貴方の目指すところと真逆だと思うのですが」
「ぐうっ!」
私の言葉が突き刺さっている様子で、神埼君はショックを受けたようにうめき声を上げます。
が、まだ指摘すべき点は残っています。
「そして最後に。そもそも貴方が仮に条件通りの漢らしい人間になったとしても、世界で唯一の男になるわけでもないのですから、貴方が選ばれる保証なんて一切無いと言いますか、むしろ他の条件から鑑みるに可能性は皆無ですよ」
「ウグアァァアアッ!」
ショックの大きさからか、神埼君は頭を抱えてその場に膝を付きます。
「そ、そんな。オレのやってきたことは、無意味だったってのかよぉ」
「無意味に決まってるだろ。俺の婚約者だぞ、そもそも」
「ぐはぁッ!」
そして、金浜君の言葉がトドメとなったようです。ショックを受け、その場に倒れ込みます。
そのまま動き出さないのをしっかりと時間を置いて確認した後。
「乙木さん。拘束お願いします」
「ええ、了解です」
金浜君の要望に従い、無力化された神崎君を拘束することとなりました。
なお、これは後に分かったことですが。彼がその場に倒れ込んだのは、ショックのあまり無意識のうちに自分自身に即死魔法を発動し、実際にダメージを受けていたからだったようです。
即死魔法のスキル自体に、即死魔法への耐性が含まれていたのが不幸中の幸いでしたね。





