11 生徒同士の語り合い
沙織さんとの関係の変化については、ひとまず今回の戦争が終わってから報告する、ということで二人の間で話がまとまりました。
翌日、ぎこちない歩き方をする沙織さんに違和感を抱いた様子の仁科さんがこちらを睨んできましたが、すっとぼけておきます。
そうして、私達はさらにバロメッツ公国首都へと向けて進軍します。
最初の作戦の後、さらにもう一度接敵しましたが、既に動員人数も限界に近いのか、規模は小さくなっていました。
ここより先の反撃は、そう激しくないものになると予想されます。
そうして三日後。いよいよ首都目前という段階になって、最後の敵軍と接敵します。
しかもどうやら、今回は人数よりも少数精鋭。しっかりとした武装で身を固めた兵士に加え、召喚者の姿が何人も確認されました。
総勢千人弱ほどのこの敵軍が、内藤の最後の手札と見て良さそうですね。
「では、今回もこれまでどおりの作戦で行きましょう」
ある天幕の中、作戦会議をしていたところ、不意に手が上がります。
「すみません。少しだけお願いがあるんですが」
手を上げたのは、木下さんでした。
「はい。何かありましたか?」
「今回の、生徒たちの説得ですが、私達にお任せして貰えませんか?」
つまり、求人の放送と物欲で釣る作戦でも靡かなかった召喚者の説得をするために、自分たちが前線に出る、という意味です。
「いいんですか? 恐らくですが、戦場で唯一危険のある場所になりますが」
恐らく、内藤はチートスキル持ちである召喚者にはより強固な精神支配を掛けているはずです。
そして今回の敵軍には数多くの召喚者が含まれています。
即ち、説得無しで精神支配から逃れられる召喚者の数は少なく、説得の過程で彼らからの反撃を一斉に受けるリスクがあるのです。
それを理解していてもなお、木下さんは頷きます。
「全員が納得しています。クラスメイトの、生徒のことは私達が受け持ちます。乙木商事の皆さんにこそ、危険な場所に向かってもらうのは申し訳ないですから」
責任感からか、木下さんははっきりと断言します。やはり、自身の生徒というのもあってか、全て他人任せで楽に終わらせよう、という気持ちにはならなかったようです。
ある意味では予想の出来ていた事態ではあるので、私は頷きます。
「分かりました。では、召喚者の皆さんの説得はお任せします。ですが、それ以外の敵兵に関しては私達に任せてもらいます。いいですね?」
「はい。ありがとうございます!」
木下さんの要望も通り、これで作戦会議も終了です。
さあ、軍と軍による最後の戦いに挑みましょうか。
「では、作戦開始!」
今までの作戦通り、求人の放送と応募用紙と粗品の配布による精神支配の解除を狙います。涼野さんは戦場が狭い分、今までよりも強く魅了魔法を発動させます。
さらに、今までとは違い、支配が強い敵兵の説得要員として涼野さんを除く『勇なる翼』の皆さん。そして三森さん、東堂君、松里家君に加え、マルクリーヌさんとシュリ君も参加します。
私も金浜君と共に前線に出ますので、ある意味では総力戦とも言えるでしょう。
『乙木商事の、お得情報~っ!』
いよいよ放送が始まりました。ここから、私達も行動開始です。
私は金浜君と共に、召喚者以外の説得に向かいます。マルクリーヌさんとシュリ君も別方面で召喚者以外の説得です。『勇なる翼』と三森さん、東堂君、松里家君は召喚者の説得。
案の定、精神支配が解除されなかった敵兵の多くが召喚者でした。
「待ちやがれぇッ!」
さあ、どこから説得に向かおうか、と考えているところに声がかかり、同時に金浜君に向かって魔法が飛んできます。
「誰だッ!」
金浜君はこれを剣で問題なく弾くと、声の主の方へ視線を向けます。
「てめぇだけは許さねぇからなぁ、金浜ァッ!」
「お前は、神埼か!」
金浜君に向かって攻撃してきたのは、事前に要警戒として情報共有していた召喚者の一人。『即死魔法』のスキルを持つ、神崎竜也です。
どうやら金浜君と因縁らしきものがあるようですね。





