08 週休二日制
乙木商事の防衛部隊による侵攻作戦は順調に進みました。
最初に到達した都市でこそ大きな反撃はあったものの、その後は散発的な小規模の反撃があるのみで、大きな戦闘は一度だけという結果に。
その上で、バロメッツ公国首都までの行程の半分まで到達することが出来ました。
敵の反撃が少なかったこともありますが、それ以上に装甲車両での移動という圧倒的な進軍速度が功を奏していると言えます。
とはいえ、ここから先はさらに守りは固くなるはず。大きな戦いが待っていることは想像に難くありません。
そんな中。ついに後方に残してきたシュリ君、松里家君、メティドバンから内藤のスキルについての詳細な解析が出来たという連絡が届きました。
また、これに伴い、三人もこちらに合流するとのこと。
私は待ちに待った解析結果の詳細に期待しながら、三人の合流を待つことにしました。
「おまたせ、オトギン!」
翌日。合流したシュリ君が、私に抱きついて来ます。
「お待ちしていましたよ。解析結果が出たんですね?」
「うん。早速だけど、作戦会議と行こうか!」
こうして、私は合流した三人を連れて、作戦会議室として使っているテントに向かいます。
テントでは、先に金浜君、そしてマルクリーヌさんが待っていました。
「さて。それでは解析結果の報告から始めましょうか」
私が言うと、代表してシュリ君が報告を始めます。
「まずは複数の捕虜を尋問した結果、内藤のスキルによる精神支配効果が付与される条件が判明したよ。支配を受けている人は全員、内藤から『自身の願望、欲望を扇動する』ような行為を受けていることが分かったんだ」
欲望の扇動、と来ましたか。これはまた分かりづらい発動条件ですね。
「多くの人が内藤に願望、欲望を扇動された後、不自然にその感情が喪失。それ以降、内藤の命令に逆らえなくなったそうだよ」
「つまり、彼奴のスキルは対象の感情を対価に精神支配効果を付与するものであろうな」
シュリ君の説明を、さらにメティドバンが補足します。
「対象者本人の感情に置換している以上、支配の維持に管理も魔力の供給も不要。自然体で常に対象者の心に纏わりつき、必要となれば魔力を吸い上げ、さらには欲望を喪失している以上現状を打破しようとする意思も薄弱となる。恐ろしい程に合理的なスキルであると言える」
メティドバンの評価に、私も含めこの場の全員が表情を引き締めます。やはりと言いますか、内藤のスキルは相当に厄介なようですね。
「で、そこまでは分かったから、さらに実験を続けたんだよ。一つの仮説に従ってね」
シュリ君が報告を続けます。
「欲望を対価に付与されているということは、逆を言えば欲望が復活するようなことがあれば精神支配の付与が解除、あるいはそこまでは行かなくても弱まるんじゃないかって思ってね。ちょーっと色々な手段で野村っちの欲望を刺激した結果」
その言葉に何故か松里家君が顔を赤らめています。何があったのか気になりますが、今は訊くべきタイミングではありませんね。
「見事に野村っちの精神支配は解除されたってわけ!」
シュリ君は自身有りげに、両手を広げながら結果を報告します。
「これで、内藤のスキルへの対抗手段は確立したも同然だよ!」
「確かに。その解析結果を踏まえれば、今後の侵攻作戦も大きく有利になるでしょうね」
私はシュリ君の言葉を受け、今後の作戦について考えつつ頷きます。
「さあ、オトギン。この結果を踏まえて、良い作戦は思いついたかな?」
「ええ、もちろんです」
既に私の頭の中には、あるプランが組み立てられつつあります。
「そうですね。作戦名は、週休二日制作戦とでも名付けましょうか」
私の告げた作戦名に、皆さん揃って微妙な表情を浮かべます。
が、作戦そのものは大真面目です。
さあ、このまま作戦の詳細まで話し合っていきましょう。





