07 反転進撃
シュリ君、松里家君、メティドバンの三人が内藤のスキルについて調べ上げている間に、私は本来やるべきことをやっておくことにしました。
それは、侵攻してきたバロメッツ公国軍を押し返すこと。反撃、進軍してルーンガルド王国の国境から遠ざけることです。
この争いはそもそも、内藤が起こしたものです。このまま守っているだけでは埒があきません。
かといって、来る兵全てを無力化し、捕縛するというのも無理がある話。
ですので、状況を変える為には内藤が居るであろうバロメッツ公国首都まで進軍。そして内藤自身を押さえる他ありません。
それにはやはり電撃的な進軍により、援軍が来るよりも先に内藤へと到達するのが最も望ましいと言えます。
ですので、私は乙木商事の防衛部隊を引き連れ、国境の守りにはルーンガルド王国の国軍のみを残し、進軍することにしました。
野村君と共に攻めてきた軍勢は打倒しましたが、その先にも恐らくは防衛戦力として一般市民や召喚者が配置されているでしょう。
それらも可能な限り順次無力化し、周辺から援軍が送られてくることによる無駄な争いが起こるよりも先に首都を目指します。
そんな進軍を続けて翌日の野営地にて。
私はここまで付いてきてくれた『勇なる翼』の皆さんと、金浜君、三森さん、東堂君の様子を見に向かいました。
ここまで戦闘はありませんでしたが、もう少し進めばさすがにバロメッツ公国の軍と接敵するでしょう。
そうなると、皆さんには体力的な面以上に、精神的な負担をかけることになります。
ですので、もしも気負い過ぎているようなら何らかの手段で慰めるか、あるいは酷い様子ならば待機するよう指示するつもりで顔を出します。
皆さんが寝泊まりするテントの近くまで来ると、先にある人物と顔を合わせることになりました。
「乙木さん? どうなされたんですか?」
木下ともえさん。皆さんの教師であり、数少ない大人組の一人です。
「こんばんわ、木下さん。皆さんの様子を見に来たのですが、どうでしょうか?」
「はい。乙木商事の防衛部隊であれば一般人の方々を無傷で拘束出来ると分かっていますから。以前よりは、だいぶ顔色も良いと思います」
「以前よりは、ですか」
となると、やはり負担は感じているのでしょうね。
「もしも辛いようでしたら、ここからの戦いで前線に立つ必要はありませんよ」
私が言うと、木下さんは首を横に振ります。
「いいえ。少なくとも私は、前に出なければいけません。戦わされている人々の中には、私の生徒たちも居るんですから」
どうやら覚悟が決まっている様子。木下さんは、そのまま心情を語ります。
「生徒同士で争うなんて、本当ならあってはならないこと。けれど状況が許さないのであれば、せめて私が前に出て、みんなを守りたいんです。生徒たちの心が傷つくぐらいなら、代わりに私が」
「それは俺たちだって同じ気持ちですよ、先生」
木下さんが語っているところに声を挟んできたのは、テントから出てきた金浜君でした。
「先生が傷つくぐらいなら、俺たちだって頑張りたいんです。だから、みんな帰ろうともしなかった。ここまで付いてきたんです」
金浜君は言いながら、木下さんの肩に手を置きます。
「それに、クラスメイトと戦わなければいけないからこそ。その責任や苦しさを、他の誰かに肩代わりしてもらおうなんて思えない。俺たちは、俺たち自身でこの戦いを終わらせないといけない。だから、先生だけに頑張ってもらおうなんて、誰も思っていません。みんなで、頑張っていきましょう」
金浜君の言葉に、木下さんは瞳を潤ませながら頷きます。
「はい。そうですね。私達は、仲間ですから。一緒に頑張りましょうっ!」
どうやら、この様子を見る限りであれば、大丈夫そうですね。
少なくとも、ただ辛い、苦しいという思いばかりで押し潰されるようなことにはならないでしょう。
とは言え、苦しいことには変わりないはず。
こんな戦いは、一刻もはやく終わらせたい。そんな気持ちが、改めて湧き上がるのを感じます。





