03 前線到着
乙木本社から防衛部門の部隊を引き連れて出発した私。
ルーンガルド王国の国内では特に邪魔をされるはずもなく、順調に進みます。
特に問題も無く、全軍で最前線へ。最も激しい戦闘が起こっている、バロメッツ公国との国境へと到着しました。
既に王国軍が陣地を敷いており、金浜君や乙木商事が事前に派遣した戦力もその一角に集結していました。
私はまず、そこへと顔を出します。
「乙木さん!」
私の姿に気づいた金浜君が、声を上げてこちらに駆け寄ってきます。
金浜君には怪我等は無いようで、ひとまず安心します。少なくとも、敵戦力は勇者である金浜君を傷つけるほどのものでは無いようです。
「たった今、応援の戦力を連れて来ました。戦況はどのような状況ですか?」
「はい。説明するよりも、まずはみんなの様子を見て下さい。その方が、話もしやすいですから」
言って、金浜君は一つのテントへと私を案内します。
そこには、金浜君を始めとする召喚者が集まっていました。
聖女の三森さん。剣聖の東堂君。賢者の松里家君。さらには、乙木商事から派遣された戦力である、召喚者による冒険者パーティ『勇なる翼』の皆さん。仁科さん、真山君、鈴原さん、木下さん、涼野さんの五人が待機していました。
全員が怪我らしい怪我などはしていない様子。ですが、その表情は優れません。
「あ、かいちょーっ!」
私の姿を見て、涼野さんが明るい表情でこちらに寄ってきます。
その声を聞いて、他の皆さんも顔を上げ、安堵したような表情を浮かべます。
「お疲れのようですね。何があったんですか?」
「うん。ウチらも、覚悟はしてたんだけどさ。ソレ以上にキツイっていうか、ヤな感じの戦いばっかだった」
悲しげな声で語る涼野さん。
そのまま私は全員から詳細な話を聞いて、ようやく理解します。
敵の殆どが、内藤のスキル『洗脳調教』の影響を受け、嫌々ながらも戦場に立たされている兵士です。
口々に戦いたくない、こんなのは嫌だ、と叫びながら、悲壮な表情で突撃してくる様は、精神的なダメージが大きかったようです。
中でも、同じ召喚者。内藤組に付いた結果、洗脳調教によって無理やり戦わされる羽目になったクラスメイトも多数居るらしく。
そんな相手との度重なる戦いで、精神的にすり減っているのだとか。
受けたダメージや負傷は、三森さんと鈴原さんがスキルを使い癒やしてくれます。なので表面的にはダメージが無いように見えますが、特に勇なる翼の五人は精神的な疲労が溜まっています。
気分の悪い戦いを、ほぼ一方的な攻撃を受けながら、可能な限り敵を無力化するという理不尽なほど面倒なやり方で戦い続ける。そんな状況下、みんな疲れ果ててしまったのでしょう。
皆さん、このまま戦い続けるのは無理だという結論に至ったようです。
「不幸中の幸いといいますか、内藤のスキルも完璧じゃないみたいで、戦場以外では強制力もさほど強くありません。殆どの兵士は捕虜にしたり、無力化して戦場から離れた場所で開放すると無理に暴れることは無くなります」
金浜君が補足するように、洗脳された敵兵の特徴を語ります。
「とは言え、それでも厄介な相手であることには変わりません。それに、内藤が特に強く洗脳した相手、例えば俺達のクラスメイトや敵軍の指揮官なんかは、捕虜にしてもスキルの強制力からは逃れられません」
「問題の解決には至らない、というわけですね」
状況を理解し、私は頷きます。
「分かりました。ひとまず、これからの戦いは乙木商事の防衛部門が引き受けます。皆さんは、まずは後方でゆっくりと休んで下さい」
私がそう告げると、誰もが安堵した様子で息を吐きました。





