26 メティドバンの処分
「さて。乙木殿が大森林自治区の管理官として決まったのじゃが。とはいえ、勝手のわからぬ領地での仕事には苦労が多いであろう? となると、補佐官が必要となるはずじゃ」
メティドバンに視線を向けながら、ヴラドガリアさんが語ります。
それはつまり、そういうことなのでしょう。
「ま、魔王様、それは」
「うむ。そしてちょうど、我が軍にはおるじゃろう? 様々な知識に精通しており、補佐業務にもなれており、だというのに都合よく何の仕事も無い男が、一人だけのう」
そう。それはつまり、メティドバンさんを私たち乙木商事の補佐官として出向させる、ということです。
「よ、よいのですか?」
「うむ。むしろ、信頼できる能力を持った部下でなければ困る。つまり、お主が適任なのじゃよ」
「うう、ありがとうございます魔王様ッ!」
ヴラドガリアさんの言葉に、メティドバンは涙ぐみます。
それも当然のこと。七武将の地位剥奪。そして無期限の謹慎処分。これは魔王軍に席を置きながら、何の仕事も役職も無い状態にする、という処罰だったはずです。
本来なら、何の身動きも取れない状態で飼い殺しにされるような、十分に重い処罰のはずです。しかし、メティドバンが補佐官となるのであれば話は変わります。
役職無しとなったのは、新たな役職である大森林自治区管理補佐官という立場をスムーズに受け入れさせるため。
そして無期限謹慎処分は、魔王軍に席を置きながら、余計な雑務に煩わされることなく、乙木商事の方へと出向させる為の方便。
要するに、処罰として一切機能していないのです。
むしろ、乙木商事との今後の関係性において、極めて重要な役割を担うことになるとも言えます。
「良かったですね、メティドバン」
「乙木殿。お主にも感謝してもし足りぬほどの恩がある。今後、この補佐官としての役割を通して、全霊でもって恩返しをさせていただこう」
そう言うと、メティドバンと私は互いに手を差し出し、握手を交わしました。
「宜しくおねがいします、メティドバン」
「うむ、こちらこそ宜しく頼むぞ、乙木殿よ」
こうして無事、私たち乙木商事と魔王軍の同盟は締結され、大森林自治区への足掛かりも出来ました。
これからまた、忙しくなりそうです。
などと考えていた所で、慌ただしい足音が聞こえてきます。
「ダーリン! 大変だよっ!」
そして、バアンッ! と大きな音を立てて会議室の扉を開き、ジョアンさんが入室してきます。
「どうしたのですか、ジョアンさん。そんなに慌てて」
「今さっき、乙木商事の本部から通信があったんだよ! 緊急のやつ!」
緊急通信。それは高出力の通信機を使い、中継基地無しでも本部と通信する為の技術を使った通信です。
使うエネルギーが多く音質も悪いため、普段は使わないのですが。それでも今回のように、通常の通信が届かない魔王城のような場所でも通信が受け取れるというメリットがあります。
どのような場所でも受け取れる、という性質から、緊急時の通信にのみ制限し、利用しています。だから緊急通信、というわけです。
「それは非常事態ですね。具体的には、どのような?」
私が問うと、緊張した様子でジョアンさんが言います。
「内藤組ってやつが、ルーンガルド王国に対して攻め込んできたって! しかも、それに応戦した勇者のみんなが被害を受けちゃって、負傷して撤退、可能な限り早くこっちに戻ってきて、力を貸してほしいって!」
それは、まさに緊急の内容。
内藤組の蜂起による被害報告と、救助要請という正に切羽詰まったものでした。
「乙木殿よ」
顔がこわばっていた私に、メティドバンが話しかけてきます。
「帰るのだろう? お前の国に」
「ええ、そうなります。一刻も早い援助が必要です」
「であれば、私も一緒に向かおう」
「メティドバンもですか?」
その言葉に、メティドバンは頷きます。
「我が知識を、存分に利用してほしいのだ。乙木殿の身内が危ないというのなら、是非力にならせてほしい。恩を返すべきは、まさにこの時だと私は思う」
「そうですか」
どうやらメティドバンの決意は堅いようです。
「では、お願いします。行きましょう、メティドバン!」
「ああ! 我が知識と力、存分に振るおうぞ!」
こうして、私は新たな仲間となったメティドバンを引き連れ、急遽ルーンガルド王国へと帰還することになるのでした。
これにて九章は完結となります。
十章からはついに内藤組との対決が始まります。
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