24 理解した後に
メティドバンは、その場に崩れ落ちたまま、肩を震わせます。
「そんな、まさか。同じ、だと言うのか。我が復讐の計画が、我が同胞を滅ぼした、かの狂王とそれに従った人間共と。同じことを繰り返そうとしていたというのか?」
その言葉に、私は何も返しません。
戦闘が終わり、メティドバンの方へと歩み寄るヴラドガリアさんが、代わりに口を開きます。
「全てが同じ、とは言わぬ。じゃが、お主がこのまま復讐心に飲まれ、必要の無かった犠牲を出してでも突き進むというのなら。その本質は変わらぬ。生み出される犠牲者達は、お主の同胞が抱いた絶望と同じものを抱いて死にゆくのじゃろう」
ヴラドガリアさんの言葉で、ついにメティドバンは限界が来たようで、涙を流しながら語ります。
「そうですか。私は、間違ったのですね、魔王様。私は復讐の結実を願う余り、同胞の願いすら踏み躙ろうとしていたのですね」
泣き崩れるメティドバンへと、私も歩み寄って声を掛けます。
「間違いは誰にでもあります。私だって、今まで何度も間違えてきました。だからこそ、気づいた時に引き返せるか。どうやり直すかの方が重要なのです」
「人間、お前は」
メティドバンが何かを言う前に、私は言葉を続けます。
「さあ、立ちましょう。そして願わくば、どうかこれからは一人でも多くの仲間を救うため、その力を使ってくださいませんか? 出来るなら、私達と一緒に」
私が語りかけると、メティドバンは視線を逸らしつつ問い掛けてきます。
「我が同胞は、許してくれるだろうか。間違えた私を。復讐よりも、優先するものを見出してしまった私を」
その言葉には、ヴラドガリアさんが答えます。
「誰が許すでもなく、お主は自由じゃ。大切なのは、お主の本当の願いを理解した今、それに恥じぬよう生きることじゃろう?」
「ええ、そうですね」
ヴラドガリアさんが言いつつ、私に視線を向けてきたので、私も付け加えて語ります。
「もしも貴方の同胞が貴方に願うとすれば。それは復讐の果てに犠牲者と生み出し、生涯を復讐に費やし死にゆくことではなく、同じ悲劇を二度と繰り返さないことを願うと思います」
私とヴラドガリアさんの言葉で、メティドバンは目を見開き、そして何かを思い返すかのように虚空を見つめます。
「ああ、そうだ。そのとおりだ。我が同胞は優しかったのだ。だから技術の全てを封じ、争わぬことを選んだのだ。なのに、何故私は、そんな簡単な、当たり前のことにも気づかなかったのだっ!」
顔をしわくちゃに歪めて、メティドバンは涙を流します。
「メティドバンよ。今は泣くがよい。お主は今、真の意味で同胞の無念を理解したのじゃ。これからは、泣く間も無いほど忙しくなるじゃろう。だからこそ、今ここでだけは、思う存分、泣くと良いのじゃ」
「魔王様。かたじけのうございますっ」
ヴラドガリアさんはメティドバンの肩に手を添え、慰めます。メティドバンも、ここぞとばかりに号泣。貯まりに貯まった感情を吐き出すかのように、大量の涙を流します。
私はそんなメティドバンの様子を見守り、彼が立ち直るまで待つこととなりました。
やがて涙が止まると、メティドバンは立ち上がり、私に向き直ります。
「すまなかったな、人間よ。そして、ありがとう。私の本当の望みが分かったのは、お主のお陰だ」
「いえいえ、気にしないで下さい」
言って、私は手を差し出します。
「改めまして。私は乙木商事の会長を務めております、乙木雄一という者です。以前より、魔王軍との同盟締結を望み、交渉しておりました」
「うむ。我が名はメティドバン。魔王軍七武将が一人、賢将メティドバンである」
メティドバンは私の手を握り、握手を返してきます。
「乙木よ。今回の御恩は決して忘れぬ。魔王軍の一員としても。そして私個人としても、お主の助けになると約束しよう」
「ええ、ぜひ。期待しております」
こうして。無事メティドバンとの戦いも終え、最終的には協力関係すら結ぶことに成功。
突入作戦は、最高の形で成功を納めることとなりました。





