21 メティドバン最終形態
砦の内部を探し回った結果。メティドバンは、砦内部の司令室に籠もっていました。
ただし、ただ単に隠れていたわけではありません。
司令室は、見たことも無い機材にあふれており、その中央の、玉座にも見える不気味な座席にメティドバンが座っていました。
「来たか人間よ。そして、魔王様も」
メティドバンは椅子に座ったまま、こちらを見据えます。
「だが、一歩遅かったようだな。我が最強のホムンクルス、接続型強化生体外骨格、その名も『シリアルキラー』の起動準備は終了したッ!」
言うと、メティドバンは座席に座ったまま、何かのスイッチを押します。
すると、みるみるうちに周囲の機材がメティドバンへと集まり、そして次々とメティドバンの肉体へと突き刺さります。
無数の管が突き刺さり、見るも無残な姿になったメティドバン。
しかし、その表情は不敵な笑みを浮かべたままです。
「刮目せよッ! これが我が同胞の怒りの結晶ッ! 人類を滅ぼす人造の神であるッ!」
そして、メティドバンの宣言と同時に、無数の管に沿って、肉のような物質が生成されます。
やがて生成された肉同士がくっつき、管も集まり、最終的にはメティドバンを中心に据えた一つの人型へと変形。
生み出されたのは、巨大な人型の化け物でした。
「フハハハハハッ! 今回ばかりは、感謝をしてやるぞ、人間よッ! 貴様が以前見せた、未知のエネルギーによる攻撃ッ! あれのお陰で、こやつを動かすエネルギー問題が解決したッ! この『シリアルキラー』は、我が復讐心、同胞を失った悲しみ、怒り、人類を滅ぼすまで尽きぬ炎を原動力に動くッ! つまりは、無限のエネルギーを発揮する、最強のホムンクルスであるッ!」
なんと。メティドバンの言葉が本当なら、これは厄介ですね。
「ぬう。原動力が乙木殿と同様の未知のエネルギーを利用しておるとなれば、妾の魔眼でも奴を停止出来ぬのじゃ」
ヴラドガリアさんは困ったようにうなります。正に、私もそれを心配していました。
ホムンクルスの多くは魔力を原動力にしており、それは即ちヴラドガリアさんの力があれば簡単に無力化可能であるという意味でもあります。
しかし、このシリアルキラーと呼ばれた存在は、メティドバンの復讐心を原動力にして動く兵器。私の詛泥等のスキルのような、呪いに近いエネルギーを元にしているとなると、厄介な相手になります。
「魔王様ッ! 貴女に恨みはありませぬが、ここは押し通らせていただきますッ!」
「そうはさせぬ。妾も、伊達に魔王とは呼ばれておらぬのじゃ」
そうして、二人の戦闘が開始されます。
メティドバンが操るホムンクルス、シリアルキラー。そして魔王ヴラドガリアさん。二人が同時に駆け出し、正面から拳を交えます。
そして、なんとヴラドガリアさんは闘気属性の魔法で身体を強化し、正面から殴り合っているにも関わらず、なんと僅かにシリアルキラーに押し負けて、後方に吹き飛ばされます。
「なんじゃとッ!」
「フハハハハッ! このシリアルキラー、魔王様のお力をベースに設計された正真正銘の殲滅兵器ッ! ステータスに換算すれば、魔力以外の全ステータスがSSSSの上位に匹敵する数値を誇るのですッ!」
自慢げに語るメティドバンさん。その言葉が本当なら、たしかにヴラドガリアさんが押し負けることもあるでしょう。彼女のステータスは、筋力、体力、速力に関してはSSSS。もしもシリアルキラーのステータスがSSSS+に相当するのならば、闘気で強化したヴラドガリアさんの身体能力でも僅かに分が悪いでしょう。
なんともまあ、とんでもない兵器を完成させたものです。確かにこれだけの性能のホムンクルスであれば、人類は成すすべなく蹂躙されるでしょうね。
「じゃが、それならばッ!」
ヴラドガリアさんは、即座に判断を切り替えます。物理的な能力が高いのであれば、魔力を使い、魔法で攻めればいい。
そう考えたのでしょう。深淵属性の、ヴラドガリアさんの魔法により生み出された弾丸がシリアルキラーを狙います。
「フハハハハッ! 無駄無駄無駄無駄ァッ!」
ですが、それすらもシリアルキラーには通用しませんでした。
深淵属性の弾丸が直撃した途端、魔力が謎の力に侵食され、霧散。ほとんどダメージを与えることが出来ず消滅しました。
「なっ!」
「我が復讐心を全身に満たすシリアルキラーに、生半可な魔力など通用しませんぞッ! ダメージを与えたいのであれば、魔王様お得意の極大魔法を発動なさると良い! だが、その巻き添えでどれだけの魔族、そして人間が死に絶えるのかは分かりませぬがなァッ!」
「ぐぬ、メティドバン、貴様ァッ!」
ヴラドガリアさんは悔しそうに表情を歪めます。深淵属性の弾丸ではかすり傷にもならない、魔法に対する強い抵抗力。これを打ち破るには、それこそ砦周辺一帯を破壊するほどの威力で魔法を放たねばなりません。ヴラドガリアさんの魔力であれば、それも可能でしょう。
ですが、こちらにはそんな選択肢は選べない。それが分かっているからこそ、メティドバンは自信満々に煽ってきているのでしょう。
「さあ魔王様、どうぞ降伏なさいませッ! そして人間よッ! 今こそ貴様の命、この場で刈り取ってくれようぞッ!」
「ぐッ、乙木殿ッ!」
ヴラドガリアさんは悔しげな表情を浮かべたまま、こちらに視線を送ってきます。
私は頷き、前へ出ます。ここは、私が頑張るべき場面でしょう。





