17 悲劇のゴブリン
ヴラドガリアさんから聞いた話は、中々に衝撃的なものでした。
まず、キャンディゴブリンという言葉について。これはかつて存在した、とあるゴブリンの一族を、食肉扱いする言葉であるため、魔族や魔物達にとっては蔑称として認識されているようです。
そして、キャンディゴブリンが指す一族とは。私もかつて、聞いたことがあります。この世界で地中海と呼ばれる、巨大な塩湖の周辺に暮らしていたとされるゴブリンの一族です。
彼らは錬金術等、様々な高度な技術を有していました。ですが、ある時、その肉が非常に美味であるとの話が広まってしまい、とある国の王の命令で狩り尽くされ、全滅した。
そんな昔話があり、魔族の間でも地中海の民の悲劇として有名なのだとか。
そして、これとメティドバンさんの関係についてですが。
実は、以前からメティドバンさんは、その地中海のゴブリンと共に暮らしていた、普通の種のゴブリンであったという噂があったのです。
一般的なゴブリンでありながら、地中海の民の技術を持ちながら、その肉体が通常のゴブリンであったため、唯一狩りから逃れることが出来たのだとか。
そして同胞を殺された怒りから、メティドバンさんは全ての元凶、国王を殺した。
だが、それでも恨みは消えず、今でも人間たちへの復讐心を燃やし続けているという。
そんな噂が、昔からあったのだとか。
しかし、いくらなんでも昔の話が過ぎます。ただのゴブリンであるはずのメティドバンさんが、そんな昔から生きているはずもありません。
だから噂といっても、メティドバンさんのイメージから作られた単なるゴシップに過ぎないと思われていたのだとか。
しかし、今回の私が聞き出した言葉から、噂に信憑性が増してしまいました。
そして実際、ありえない話では有りません。
もしも本当に、メティドバンさんが地中海の民の技術を保有しているのだとしたら。そして、私が砦の地下室で見た技術が、まだまだほんの一部に過ぎないのだとしたら。
単なるゴブリンが、何百年と長生きすることも不可能ではないかも知れません。
「と、なるとじゃ。メティドバンの奴が、本当に地中海の民の技術を引き継ぐ者である可能性は高い。思えば、奴の作戦は未知の技術を使ってのものが多かったのじゃ。それを考えると、やつが単なる天才であるというよりも、かの民の技術を継承しておる、と考えるのが自然じゃ」
ヴラドガリアさんも、どうやら私と同じ結論のようです。
「そうなりますと、彼は義憤や利益ではなく、自分の信念、復讐心から戦っていることになります」
「うむ。説得で無力化するのは難しいじゃろうな」
私と共に、ヴラドガリアさんは頷き合います。
「最悪の場合、いや、むしろ高い確率で、メティドバンに関しては殺さねばならぬじゃろうな」
それは、当然導かれる結論です。
魔王軍としての義憤からであれば、魔王本人であるヴラドガリアさんの説得次第では戦いをせずに済む可能性もあります。戦争から得られる利益、利権が大事なのであれば、それらに変わる何かを提示することが出来れば説得可能です。
しかし、復讐心から来る行動には、こちらから提示できるものが何も有りません。故に、彼を説得することはほぼ不可能なのです。
「一応、接敵した場合は説得を試みてみますが。しかし、期待はしないで下さい」
「うむ。最終的には、そういうことになろうな」
魔王様も、メティドバンさんの処遇に関しては納得している様子。
私としても、可能であれば説得したいのですが。こればかりは難しいでしょう。





