15 超加速の奥義
仕切り直し、とばかりに八色さんが動きます。
「今度こそ!」
八色さんはまたホムンクルスの背後に回ります。
「同じ手は二度と喰らわんッ!」
ホムンクルスはそう言うと、地面にめがけて拳を振り下ろします。
どうやら闘気属性の魔力を持っている様子で、拳が床を叩くと同時に衝撃波が発生。全方位に目掛けての攻撃が繰り出されました。
「くっ!」
八色さんは咄嗟に距離を取ります。が、広さに限りのある地下室。避けるだけでも一苦労です。
ギリギリで衝撃波を回避しきった八色さんですが、攻撃に出る余裕は無い様子。それを見たホムンクルスはさらに攻めの姿勢に出ます。
「ぐははははッ! このまま叩き潰してくれるッ!」
拳を連続で地面に叩きつけながら、八色さんを追い込んで行くホムンクルス。その動きは巧妙で、衝撃波のせいでなかなか自由に動けない八色さんでしたが、意を決した様子。
「仕方ないけど、これでッ!」
言うと、八色さんは周囲に落ちている瓦礫や機材の破片を拾い、手の平に乗せます。
「超加速、フルパワーッ!」
そして八色さんが宣言すると同時のことでした。
超加速のスキルにより、とてつもない速度を与えられた物体が、ホムンクルスへ目掛けて飛翔します。
膨大な運動エネルギーを持った物質が、次々とホムンクルスの肉体へと着弾していきます。
ドスドス、と鈍い音を立てて突き刺さる破片に、ホムンクルスは苦しみます。
「グアアアッ! こ、これしきでェッ!」
ホムンクルスはダメージを堪えながら腕を振るいますが、それでも衝撃波の弾幕は薄くなります。
お陰で八色さんが包囲網から抜け出し、余裕が出来ました。
「これでトドメです!」
そして八色さんは、一際大きい一抱えほどもある大きな瓦礫を拾い、それを超加速のスキルで飛ばします。
質量が増えた分もあり、超速度で射出された瓦礫が持つ破壊力は相当なものとなります。
それがホムンクルスの肉体と衝突した瞬間、余りにも大きな運動エネルギーが炸裂。ドゴォンッ! という巨大な音と共に爆裂しました。
「ウガアァァァッ!」
弾けた運動エネルギーがホムンクルスの肉体を傷つけ、手足に至るまでの全身をボロボロに傷つけます。
体中から血を流しながら、ホムンクルスは倒れ込みました。
「私の、勝ちですね」
倒れたホムンクルスを見て、安心した様子で息を吐く八色さん。恐らくは、先程の攻撃が八色さんにとっての奥義のような技だったのでしょう。
疲れも見える八色さんの様子から、どれだけの力を込めて超加速のスキルを発動させたのかが分かります。
「お疲れさまです、八色さん。よく頑張りましたね」
「はい。想定以上の敵でしたが、どうにかなりました。やっぱり技を隠しておいて良かったですね」
「ええ。とはいえ、これでメティドバンさんに私達が策を弄しているとバレてしまいました。そろそろ脱出としましょう」
私と八色さんはそう話し合い、頷きあってから脱出を決めます。
「ぐ、そうは、させんぞ」
どうやら、まだ死んではいなかった様子のホムンクルスから声が上がります。
「まだ生きていたようですね」
一体でも相手の戦力は削っておくに限ります。
私は大量の詛泥を生み出し、地下室を満たしていきます。
「グオオオッ! な、なんだこれはッ!」
呪詛に侵され、肉体が壊されていく感覚は初めてでしょう。メティドバンさんの操るホムンクルスは、再生も間に合わずどんどん肉体が崩れていきます。
十数秒ほどで、この地下室に存在していた全ての実験器具、そしてホムンクルスの肉体は溶けて消滅しました。
「行きましょう、八色さん。帰還です」
「はいっ!」
こうして、私と八色さんは砦から脱出することとなりました。





