10 圧倒的戦力差
「行こう、ティオ」
「うん、ティアナ」
先に動き出したイチロースズキさんに感化されたのか、ティアナさんとティオ君も動き出します。
トリッキーかつ素早い動きのホムンクルス達ですが、そういった連携をする魔物と戦う経験も、冒険者である二人にとっては慣れたもの。
「止まれ」
ティアナさんは呟いてから、氷の魔力で冷気のフィールドを広げてゆきます。周囲の木々や植物が凍りつく程の冷気が漂います。
これに包まれた結果、ホムンクルス達は動きが鈍り、コンビネーションが崩されます。
当然、この隙を逃す理由はありません。
「落とす」
ティオ君は一瞬にして距離を詰め、ホムンクルスの一体の首へ目掛けて魔導セイバーを振るいます。
鋭い魔法の刃がホムンクルスの首を一刀両断し、ゴトリと音を立てて首が落ちます。
「ぬうっ! 許さぬ! 我が傑作のホムンクルスを、一体ならず二体までもッ!」
怒った様子のメティドバンさん。残るホムンクルス三体が集合し、一斉にティオ君へ目掛けて突撃します。
ですがティオ君は冷静に対処。即座に後退し、ティアナさんと合流してから魔法を放ちます。
「近寄るな」
「消し飛べ」
二人が発動した魔法は、一つに合わさり、氷の嵐となってホムンクルスへ目掛けて発射されます。
荒れ狂う風と氷の刃に、危機感からホムンクルス達は即座に後退。
「グオオオオッ!」
ですが完全な後退は間に合わず。ホムンクルス二体を盾として犠牲にし、唯一喋るホムンクルスであった一体が辛うじて生き残ります。
「まさか、ここまでの実力者を揃えていたとはッ! かくなる上は」
「させませんよ」
何か奥の手を使おうとしたホムンクルスの背後に、すでに八色さんは移動していました。死角から、武器のナイフで心臓を一突き。
背後から貫かれ、胸からナイフが飛び出るホムンクルス。
「がフッ!」
当然、即死のダメージです。せめて一矢報いようとホムンクルスは八色さんのいる方向を振り向きますが、無駄です。すでに八色さんは、そこには居ないのですから。
「ま、まさかこんなことになるとは」
その一言だけを言い残し、ホムンクルスは倒れます。
これで敵は全滅した、かのように思えましたが。次の瞬間、イチロースズキさんが動きます。
「ここですか?」
風の魔法で、離れた場所に竜巻を起こします。それは私の背後で、ちょうど私を狙っていた『六体目』のホムンクルスの邪魔をする位置でした。
ホムンクルスは咄嗟に動きを止めてしまい、それだけの隙があれば十分でした。
八色さんがホムンクルスの首を刎ねて、一撃で終わらせます。スパン、ときれいに刎ねられた首はポーンと跳ねて、そのまま地面に落ちて転がります。
こうして、敵の六体のホムンクルスは全滅しました。私達の勝利です。
「ありがとうございます、イチロースズキさん」
「いえいえ。乙木さんであれば、あの程度対処出来たでしょう。あくまで手札を隠すための一手に過ぎませんよ」
確かに、あの程度の敵に背後を突かれたからと言って私が傷つくことはありえません。ですが、私という最大戦力を温存し、相手に悟らせずに済んでいるのはイチロースズキさんが対処してくれたお陰でもあります。
「ともかく、これではっきりしましたね。メティドバンは、こちらの動きを掴んでいます。一刻も早い合流が必要ですね」
イチロースズキさんの言葉に、私達は全員で頷きます。
とはいえ、戦いは終わったのです。ひとまずは集落に戻りましょうか。





