09 部外者襲来
宴も盛り上がり、料理もほぼ無くなり、酔ったゴブリン達が騒ぎ疲れ、眠る者も出始めた頃。
最初に異変に気付いたのは、八色さんでした。
「旦那様。闇の中から、視線を感じます」
そっと私に耳打ちしてくれる八色さん。
「敵ですか」
「はい。私達を監視しているみたいですから、その可能性が高いです」
八色さんの報告を受け、ゴヴァゴヴァさんにも伝えておきます。
「ゴヴァゴヴァさん。少し良いですか?」
「オウ、ナンダ?」
そして、私達が仲間の戦いの助けに向かっていたこと。敵が近づいてきているかもしれないことを説明します。
すると、ゴヴァゴヴァさんは宴に引き止めて悪かった、等と言った後に、こう言います。
「ワレラ、ジブンデジブンヲマモル。オトギ、ジユウニタタカエ!」
「ありがとうございます。では、迎撃に向かわせて頂きます」
ゴヴァゴヴァさんからもゴーサインが出たので、さっそく不審者の撃退に向かいましょう。
私達は全員で、視線の元となる場所へと向かいます。八色さんの案内で、森の暗闇の中へと進んでいきます。
すると相手も当然気付いているのか、移動をしているようで集落から離れていきます。
「どうやら、集落から離れて横槍が入らない場所で戦いたいようですね」
八色さんの言葉に、全員が頷きます。
そして集落から十分に離れた所で、ようやく敵の姿が見えてきます。
敵はどうやら、複数人のゴブリンのようです。しかし、体がオーガとでも呼んだほうが良いぐらい大きく、かつゴヴァゴヴァさんのような筋肉質な肉体でもなく、細身で機敏そうな見た目をしています。
そして何よりも特徴的なのが顔です。総勢五名のゴブリン達が、全員が全く同じ顔をしているのです。
「我々に気づくとは、やはり相当な戦力を呼び寄せたようだな、イチロースズキよ」
「当然です。貴方にやりたい放題されるわけにはいきませんからね、メティドバン殿」
イチロースズキさんに向けて発言したゴブリンから、どうやら彼らが噂の、メティドバンさんが操るホムンクルス、というやつのようです。
恐らく本体はここに居ないのでしょうが、このゴブリン達は全員がメティドバンさんの指示で動く、メティドバンさんの手足のような存在なのでしょう。
そして中央に立ち、唯一口を開きイチロースズキさんと会話しているのが司令塔のような存在なのでしょう。
「だが、貴様らの足掻きはここまでだ。斥候特化型ではあるが、このホムンクルスはSランク冒険者にも匹敵する能力を発揮するッ! この場で貴様もろとも、全員を滅してくれよう!」
興奮した様子でメティドバンさんが語り、それが終わると同時に五体のホムンクルスが散開します。
かなり素早い動きで、かつ連携も完璧であり、同一の人物に操られているホムンクルスというものの厄介さを感じます。
しかし、そうは言っても限度があります。
強いといってもSランク冒険者相当。私達を相手にするには、不足しています。
「遅いですね」
そう言って、まず攻撃に出たのはイチロースズキさん。前に出ると同時に、彼の背中に風が吹きます。魔法による追い風が彼の一歩を大きく伸ばし、一瞬にして距離を詰めることに成功します。
そしてイチロースズキさんが向かった先には、一体のホムンクルス。
その頭を掴み、そのまま持ち上げ、さらに魔法を発動。
「お別れです!」
イチロースズキさんは魔法の竜巻を発生させ、ホムンクルスの肉体を包み込み、切り刻みます。
強烈な風の刃に全身を切り刻まれたホムンクルスは、当然戦闘不能。竜巻が収まった後、血だらけのホムンクルスをイチロースズキさんは投げ捨てます。
「この程度でSランク冒険者相当とは。いやはや、敵方の戦力見積もりが甘いというのは問題ですねぇ、メティドバン殿」
不敵な表情を浮かべて、イチロースズキさんはメティドバンさんを煽ります。
「くっ! だが、これで終わりではないぞ!」
悔しがりながらも、まだメティドバンさんは負けたつもりはない様子。
では、ここからは私達乙木商事の四人で叩き伏せてやりましょう。





