08 宴が始まる
「ツヨキモノ、ミトメル。オマエラ、ココ、トオッテイイ」
私が八色さんと話していたところに、ゴヴァゴヴァさんがやってきます。
「ソシテ、オトギ! オマエト、オマエノタミ、ゼンブミトメル! オマエラ、ワレラヴァノタミノナカマ!」
「ありがとうございます、ゴヴァゴヴァさん。これからも、仲良くしていきましょう」
私はゴヴァゴヴァさんに手を差し出し、握手を交わします。
「ヨシ! アラタナナカマガデキタキネン! コレカラウタゲ、ハジメル!」
そして、興奮した様子でゴヴァゴヴァさんが宣言すると、野次馬をしていたらしい他のゴブリン達が一斉にうおおおお、等と声を上げ、喜び騒ぎ始めます。
「宴、ですか?」
「ソウダ! モチロン、オトギモコイ!」
宴に参加しろ、と言われて困惑してしまいます。正直、今は一刻も早く魔王城に向かいたいです。
私はイチロースズキさんの判断を聞きたくて、視線を送ります。
「構いません。むしろ、ここは参加して友好関係を築いておきましょう。これから移動しても、一時間も移動すれば暗くなって移動出来なくなります。それなら、ここで他の部族の情報収集も兼ねて宴に参加しましょう。それに後々、乙木商事が大森林自治区に来る際にも、今回の縁が役に立つというのもあります」
イチロースズキさんの判断も、尤もなものです。私は納得し、頷いてからゴヴァゴヴァさんに向き直ります。
「分かりました。宴に参加させてください、ゴヴァゴヴァさん」
「イイゾ! デハ、ツイテコイ! ワレラノシュウラク、アンナイスル!」
先行するゴヴァゴヴァさん。私達は改めて装甲車に乗り、ゴヴァゴヴァさんの後をついていきます。
こうして私達は腕試しを無事に終え、ゴブリンの部族、ヴァの民と友好関係を築く為の宴に参加することとなるのでした。
集落に到着すると、さっそく広場のような場所に案内され、一段高い座席に私達全員が座らせられます。
同じく高い座席にゴヴァゴヴァさんと、その家族らしきゴブリンが座り、他のゴブリンが宴の準備を進めます。
ゴブリンの宴、と聞いて少しばかり警戒していたのですが、出てきたのは猪や鹿などの肉を、山菜や木の実を使って焼いた料理。言ってしまえば、少し豪快なジビエ料理のようなものが出てきました。
そして飲み物も、家畜の山羊の乳から作った酒が出されて、これも悪くない品質のものでした。
匂いも独特なスパイスのようなものを配合しているらしく、癖はありますが臭くは無く、中々に侮れません。
「デハ! アラタナナカマ! オトギニカンパイ!」
ゴヴァゴヴァさんが酒の入った樽同然のサイズのコップを持ち上げ、音頭を取ります。
これを皮切りに宴が始まり、ゴブリン達が騒ぎながら飲み食いを始め、中には歌ったり、踊ったりして楽しんでいる者がいます。
そんな彼らの姿を、私はしっかりと、この目に焼き付けておこうと観察します。
想像以上に、彼らは文化的な存在です。大森林自治区に住まう部族なのだから、もっと原始的な生活をしている可能性を考えていました。
しかし、料理は私が食べても美味いと思える程度には手が込んでいます。酒も山羊の乳をベースに、スパイスで香りを付けて飲みやすくする、という『裕福さ』が無ければありえない習慣が身についている様子。
焚き火を使って素焼きの肉を食う。酒があったとしても猿酒と大差無い程度のもの。そんな想像をしていましたが、彼らは遙かに上を言っています。
ゴブリンでありながら。自然の中に生きながらも、文化的な裕福さを持ち合わせる彼らに対して、私は不思議と感動に近い感情を抱いていました。
「ドウダ、オトギ! ウマイカ!」
ゴヴァゴヴァさんが楽しそうにしながら、大声で訊いてきます。
「料理も酒も、非常に美味しいです。素晴らしいですね」
「ソウカソウカ、ウレシイゾ! ガハハハハ!」
褒められて気分が良くなったのか、あるいは酒が回り始めたのか。ゴヴァゴヴァさんは豪快に笑った後、語り始めます。
「ズットムカシ、コウジャナカッタ。オレノオヤノ、ソノオヤノ、モットムカシ。ワレラ、ヨワカッタ。ホカノブゾクニオワレ、ニゲルダケダッタ」
しんみりとした様子で語るゴヴァゴヴァさん。そんな様子を見て、私は真剣に耳を傾けます。
「ソレデ、ダレカガイッタ。ウマイモノ、タクサンクウ。タクサンキタエル。ソレデゲンキニナル。ゼンインゲンキニナッテ、タタカイニカツ」
昔、彼らはよくいるゴブリンのようにその日暮らしをしていたのでしょう。けれどある日、誰かが食事を充実させ、健康な体を維持し、鍛え、強くなる道を示した。
そこから、きっとヴァの民のゴブリン達は知恵というものを手に入れたのでしょう。
「スコシズツ、ワレラハカワッタ。クイモノモ、ヌスマナクナッタ。ヤギ、ソダテテル。カリダケダト、タリナクナッタ。イノシシ、シカ、ウマ、ゼンブソダテルヨウニナッタ。ミンナ、ハライッパイニナッタ。ソレデツヨクナッタ。アンゼンナ、シュウラクツクッタ。ジカントヨユウ、デキタ。ブキツクル。メシ、ウマクスル。ドンドンワレラ、ゲンキデツヨイシュウラクニナッタ」
正にそれが、この部族の歴史なのでしょう。家畜を飼うことで食事が安定する。裕福になることで余裕が出来る。戦う以外の才能がある者が腐らなくなる。
そうやって、集団として生み出す利益をどんどん増やしていった結果、今があるのでしょう。
「デモ、マダタリナイ。ワレラ、モットゲンキニナリタイ。モットツヨクナリタイ。ソノタメニ、イロイロヤッテイル。ツヨキモノ、ナカマニスルノモ、ソノヒトツダ」
言って、ゴヴァゴヴァさんは私の方に向き直ります。
「オトギ。オマエラ、ツヨイ。ツヨキモノ、ツヨイリユウアル。オレハソウオモウ。ダカラ、オマエラナカマニシタ。オマエラノ、マネスル。ソレデ、モットワレラツヨクナル。モットウマイモノ、クエル。ゴドモタチ、ゲンキニナル。ソレガ、オレハウレシイ」
最後まで語ると、ゴヴァゴヴァさんはニカッと笑います。
「オレ、ダカラツヨキモノ、ソンケイシテル! オトギ、オマエラスゴイ! マネ、サセテモラウゾ!」
「ええ、どうぞ。存分に真似をしてください」
「ガハハ! オマエ、イイヤツ! イイヤツハ、ヨユウアルショウコ! ヨユウアルヤツ、ツヨイヤツ! モットマネ、シタクナッタ!」
どうやら、ゴヴァゴヴァさんは集落の発展を願って、私達との交流を求め、それで宴を開き、私達を仲間と呼んだのでしょう。
そう聞くと、ますます熱い気持ちが込み上げてきます。
こんなにも、未来を良い方向へ変えようという強い気持ちがある彼らとなら。
きっと乙木商事が大森林自治区に来た時も、良い関係を結べるに違い有りません。





