07 超加速の真髄
ゴヴァゴヴァさんが棍棒を構え、八色さんと立ち会います。
「イツデモコイッ！」
「ええ。いつでも行きます」
そして、次の瞬間には戦いが始まります。
先に動いたのは八色さん。スキル『超加速』を使用したのか、一瞬で姿が消えます。私のステータスですら、目で追うのが精一杯なので、恐らくゴヴァゴヴァさんでは本当に消えてしまったように見えていることでしょう。
「ド、ドコイッタ！」
慌てるゴヴァゴヴァさん。その死角となる背後に、すでに八色さんは移動していました。
「こっちですよ」
「ナニッ！」
八色さんの声が背後から聞こえたからか、ゴヴァゴヴァさんは慌てて棍棒を振りつつ振り返ります。
ですが、八色さんはそんなゴヴァゴヴァさんの動きを読んでいた様子。あっさりと棍棒を回避した後、ゴヴァゴヴァさんの腕を掴み、勢いを利用して投げるような動作をしました。
するとどうでしょう。不思議なことに、ゴヴァゴヴァさんの体は信じられない程の速度で吹き飛び、森の中へと消えていきます。
「グアアアアアッ！」
数本の木をなぎ倒し、ゴヴァゴヴァさんはようやく止まります。
「ナ、ナニガオコッタ」
「貴方の背後に周り、そして投げました。それだけですよ」
「グッ！ コノママデハオワランゾ！」
ゴヴァゴヴァさんは多少のダメージは負っているものの、かなりタフな様子で、立ち上がるとまた素早く八色さんへと向かっていきます。
しかし。また気がつくと、八色さんは姿を消しています。超加速を使って移動し、相手の意識の外となっている地点へと移動する技術。ストーカー時代の八色さんの得意技が、これでもかと披露されていますね。
「クッ！ ドコダッ！ ドコニイル！」
ゴヴァゴヴァさんが八色さんを探してキョロキョロしていますが、そうやって動くたびに八色さんは立ち位置を変え、死角に移動します。
そうして混乱させきった後、八色さんはゴヴァゴヴァさんの真正面に出現します。
「こっちですよ！」
「ヌウッ！」
完全に無警戒だった正面に姿を見せられたことで、ゴヴァゴヴァさんは驚きのあまり、また反射的に棍棒を振り下ろします。
これをまた、八色さんは回避しながら掴みます。そして今度は絡め取るような動きで棍棒を取り上げつつ、ゴヴァゴヴァさんの腕を捻り上げます。
ゴヴァゴヴァさんと比べて、明らかに非力な八色さんですが、それでもゴヴァゴヴァさんを、とんでもない勢いで大地に叩きつけ、そのまま腕を極めた状態で宣言します。
「まだやりますか？ このまま、腕を折ることだって簡単に出来ますけど」
「グウ。オマエノ、カチダ」
悔しそうにしながらも、ゴヴァゴヴァさんは正直に八色さんの勝ちを認めました。
八色さんはゴヴァゴヴァさんを開放すると、嬉しそうにしながら私の方へと寄ってきます。
「勝ちました、旦那様っ！」
「おめでとうございます、八色さん」
私は言って、八色さんの頭を撫でながら褒めてあげます。
「ふあっ。だ、旦那しゃまぁ」
「ところで八色さん。ゴヴァゴヴァさんを投げ飛ばした時、ものすごい勢いで飛ばしていましたね？ あれは、どのような技なのですか？」
私は疑問に思った点を八色さんに聞きます。私の知る限り、八色さんのステータスは素早さにかなり偏ったものだったはずです。故に、あのような勢いでゴヴァゴヴァさんを飛ばすほどの力は発揮できないはずなのです。
そんな疑問点に、八色さんはあっさり答えてくれます。
「投げそのものや武装解除の技は、日本で旦那様を影から見守っていた頃に学んだゼロ距離戦闘術、ECQCです。でも、勢いよく飛ばしたのは『超加速』のスキルなんですよ。実は、このスキルって自分以外にも掛けることが出来るということに最近気付いたんです」
ニコニコと話をする八色さん。なるほど、つまり超加速で相手を投げた時の勢いを加速することで、まるで怪力で投げ飛ばしたかのような効果が出せる、ということですね。
しかし、それ以上に気になる点が一つ。
「八色さん？ ECQCを学んだ、というのはどういうことですか？」
「え？ 普通に旦那様を守る為に学んだんですよ？ 旦那様が変な輩に襲われても、あるいは変な虫に付き纏われても、いつでも助けに入れるように、ちゃんとマスターまで修了していますっ！」
元気に、普通のことのように言っていますが。ゼロ距離戦闘術をマスターした女子高生に影から見守られていたと考えると、少々どころでない冷や汗ものです。
もしもそのまま、八色さんが何か変な気でも起こして襲われていたらと考えると、末恐ろしい思いです。
「さすがですね、八色さんは。いつもどおりです」
「はいっ！ ありがとうございます、旦那様っ！」
私は胸の中に抱いた恐怖を、八色さんの頭を撫でて誤魔化すことにしました。
