06 ヴァの民
装甲車に乗っての大森林自治区の通行は、かなり順調にいっています。
森林地帯であるため、スピードはあまり出せていませんが。それは徒歩でも同じこと。元々、魔王軍も通ることがあるために踏みしめられた広めの獣道があるので、そこを通ることで最短、かつ最速で森を進んでゆきます。
道中、オークやオーガなどの姿も見えましたが、この装甲車の姿の異様さに威圧されてか、追いかけられたり、攻撃されたりすることはありませんでした。
このまま大森林自治区は何事も無く抜けられるかも知れない、と思い始めた午後。
ついに、懸念していた問題にぶち当たります。
突如、装甲車の進路を塞ぐように、獣道の脇から飛び出してくる魔物達。見たところゴブリンのようで、槍を持っており、それらを突き出して私達に威嚇しています。
「オイ! マモノ、トマレ!」
片言ながらも、ゴブリンが声を上げます。ダンジョン等で見られるゴブリンは会話など出来ない知能の低い種族が大半であり、それらと比べると彼らはかなり知能が高いようです。
これなら交渉の余地があるでしょう。強行突破はせずに、大人しく止まります。
装甲車を停止させると、全員で降り、ゴブリン達と対面します。
「ッ! マモノカラ、ヒトガデタ!」
どうやら、装甲車を魔物の一種だと勘違いしているようです。
「魔物ではありません。乗り物の一種です」
「ノリモノ、ノイッシュ? ワケノワカラヌコト、イウナ!」
「貴方たちは馬に乗ったりしますか? それと同じですよ」
「ヌ? ヘンナウマダナ?」
会話から、どうやら馬等の家畜の概念がある程度には文化的な相手だと推察されます。
これは、どうやら会話の余地がありそうですね。
「私の名前は、乙木と申します。こちらの皆さんは」
「私は魔王軍のイチロースズキでございます」
「七竈、八色、です」
「ティアナ」
「ティオだよ」
それぞれが名乗ると、今度はゴブリン達の中でも、最も体格の良い個体が一人、前に出ます。
私の身長も超えており、オーガと比べても差し支えないほどの巨体。かなり屈強なゴブリンです。
「オトギ! オマエガゾクチョウダナ?」
「はい、そう思ってもらって結構です」
この集団のリーダーではあるので、おおよその理解は合っています。なので、細かい訂正は無しのままで行きます。
私が肯定すると、大柄のゴブリンは胸を張り、威風堂々とした態度で名乗りを上げます。
「ワレコソハ! ヴァノタミガゾクチョウ、ゴヴァゴヴァデアル!」
「ゴヴァゴヴァさん、ですか。私達を引き止めたのは、どうしてですか?」
私が問うと、ヴァの民とやらの族長である大柄のゴブリン、ゴヴァゴヴァさんが説明してくれます。
「オレ、マオウグン、シッテル。ツヨイヤツラ。ダカラ、ココ、トオッテイイ。ダガ、オマエラシラナイ! ヨワキモノ、ココ、トオルシカク、ナシッ!」
つまり、魔王軍が強いことは知っているが、私達個人の強さは知らない為、ヴァの民のルール的な理由でここを通すわけには行かない、ということなのでしょう。
「では、通るにはどうすれば良いのですか?」
「チカラ、シメセ! ゾクチョウドウシ、タタカウ! ツヨキゾクチョウノタミ、トオルノユルス!」
なるほど。つまり私が代表して戦い、力を示せば、皆さん通って良いということですね。
そういうことであれば仕方ありませんね。
「分かりました。では」
「待って下さい、旦那様」
私が前に出ようとしたところで、八色さんが引き止めます。
「なんでしょう?」
「ここは、私にやらせてもらえませんか? 一応、すでに反乱軍の目が無いとも限らない場所です。旦那様の実力は見せずにいたほうが有利になると思います」
「なるほど」
確かに、八色さんの言うことも一理あります。
「私の能力なら、目視されずらいです。それに、知っていても対処の難しい力ですから、他の皆さんと比べても、この場合は適任かと思います」
「では、八色さん。任せても良いですか?」
「はいっ! お任せ下さい、旦那様っ!」
八色さんは嬉しそうにしながら、私の代わりに戦いを引き受けてくれました。
「ゴヴァゴヴァ! お前が私の旦那様と戦う前に、まずは私を倒してもらう!」
「ナンダト!」
「旦那様は私よりも強い! 私に勝てないようでは、旦那様に挑む資格は無い!」
少し無理をしながらの、強気の発言で、八色さんはゴヴァゴヴァさんを挑発します。
「イイダロウ! マズハ、オマエカラダ!」
見事にゴヴァゴヴァさんは挑発に乗ってくれます。
こうして、八色さんとゴヴァゴヴァさんの決闘が始まることとなりました。





