26 加齢臭
私はゴブリンを追い返すために、あるスキルを強く発動するよう念じます。
すると、途端に私の身体から異臭が立ち込めます。
臭いの原因たる私でさえ、顔をしかめるほどの悪臭です。
人間よりも鼻が利くゴブリンからしてみればたまったものじゃありません。途端に五匹は両手を上げて逃走します。
その様子をしっかりと確かめてから、私はスキルを解除します。
そのスキルの名前は『加齢臭』。身体から異臭を放つスキルです。
どうやらこの加齢臭スキル、女神様に貰ったものではなく、私が自分で習得したもののようなのです。
というのも、実は私の持つスキルの中に『スキルチェック』というスキルが存在します。自分のスキルの詳細を確認できるスキルです。
このスキルのお蔭で、私は無数にある自分のスキルを調べて確認し、把握することが出来ます。
王宮にいるうちから、私はこのスキルチェックで自分のスキルを確認していました。
すると見つけたスキル、加齢臭。こんなものを与えられてしまったのか、と少しムッとしましたが、よく確かめてみると習得時期がかなり過去の時間を示しているのです。
それでふと気になった私は、他にも幾つかのスキルを確認してみました。
結果、私が女神様に会うより遥かに昔から習得していたことになっているスキルがいくつも有りました。
そこから私は、ある仮説を立てました。
女神様によって異世界に転移する過程で、その人が持っている特殊な能力はスキルに変換されてしまうのではないか。
これにより、女神様に会うより前の習得となっているのではないか。
真偽は定かではありませんが、おおよそこれで間違いないと思っています。
何しろ、私は『読書』と『速読』のスキルを持っています。そして、このスキルは今から十年以上も昔に習得したことになっています。ちょうど、私が大学生の頃に図書館へ入り浸っていた時期に該当します。
そう考えると、私は日本で生活していたころから加齢臭がしていたのか、とちょっとだけ悲しくなりました。が、重要なのはそこではありません。
もう一つ、有用なスキルを習得していたのです。
その名は『不眠症』。眠気がなくなり、眠れなくなるスキルです。普通ならこのスキルは人の身体を苦しめるものになりますが、私の場合は違います。
何しろ、シュリ君に教わった回復魔法がありますから。
不眠症で眠らずに活動し、回復魔法で肉体と脳の疲労を回復させます。そしてまた長時間活動して、時間と共に回復した魔力で疲労を回復。この繰り返しで、私は一切眠らずに活動し続けることが可能となりました。
また、幸いなことに魔物が持っていたらしい『夜目』スキルのお蔭で、夜の森でも周囲がよく見えます。よって、眠らずに夜の森のなかでも薬草採取を続けることが出来るのです。
これは通常の薬草採取と比べて、遥かに効率的な作業と言えるでしょう。
さらに、これでまだ終わりではありません。
私は『病魔』というスキルを持っています。これは病原菌を撒き散らし、人々を苦しめる魔物が習得しているスキルらしいのですが、その効果が特殊なのです。
人間を不健康にして苦しめたら苦しめるほど、経験値が得られるというのです。
病気を広げる魔物なのですから、病気を人に広めることで強くなるスキルがあるのも不思議ではありません。
ですが、この場合は条件の緩さが重要です。
なんとこのスキル、人間であれば誰でもいいのです。そう、たとえそれが自分であっても。
私は不眠症スキルで眠らずに作業をしています。そして回復魔法で無理やり身体を動かしています。この間、私は不健康な生活をしていることになります。お蔭で病魔スキルが経験値取得の条件を満たすので、どんどんレベルが上がるのです。
今となっては、私のステータスはご覧のとおりです。
【名前】乙木雄一
【レベル】48
【筋力】C
【魔力】C
【体力】C
【速力】C
【属性】なし
【スキル】ERROR
既に、冒険者として十分やっていけるレベルのステータスです。平均がCもあればCランク冒険者、つまり一流のプロとして活動できるでしょう。
レベルが48にもなってこのステータスというのはめちゃくちゃ低いのですが。
それでも強くなれるというのは良いことです。お蔭で、恐らく本気で殴り合えばゴブリン程度なら倒せるでしょう。
つまり、命の安全が約束されているというわけです。これは仕事をする上でとても重要です。
この世界では労災なんて降りないでしょうからね。自分の身は自分で守らなければいけません。