01 反乱軍の戦況
「お久しぶりです、乙木さん。今回は、魔王軍の現状についてご説明に上がりました」
そう言って、頭を下げるのは魔王軍宰相のイチロースズキさんです。
先日、魔王軍の内部で反乱軍が結成され、二分割されている状態であると報告を受けてから、すぐに駆けつけてくれました。
「ありがとうございます、イチロースズキさん。こちらとしても、魔王軍の現状が掴めずにいたので助かります」
「それは良かったです。それに、こちらとしても乙木さんにはご助力願いたいと思っておりまして。そういう意味でも、一刻も早く詳細についてご報告に上がりたいと思っていた次第でございます」
なるほど。それはつまり、それだけ魔王軍の現状がよろしくない、ということでもあるのでしょう。
私はイチロースズキさんを応接室に通し、詳細な報告を受けます。
「まず、反乱軍の詳細についてです。魔王軍には四天王の下部組織のようなものとして、七武将というものが存在するのですが、今回はその七武将が一人、賢将メティドバン殿が反乱軍を蜂起したのです」
メティドバン、という名前に、私は首を傾げます。
はて、どこかで聞いたような。はっきりとは思い出せませんが。
「そのメティドバン、という方はどのような人物なのですか?」
「ジーニアスゴブリンを名乗る、普通のゴブリンです。が、彼は極めて優れた錬金術と死霊魔術の知識を持っており、賢将と呼ぶに相応しい知能をお持ちです。その知識を活かして、本人は魔王城にいながら、ホムンクルスを使って最前線で様々な活動をしておられました」
「そうなのですか。具体的には、どのような活動を?」
「彼が行った最も大きな作戦は、ルーンガルド王国内でウルガスを繁殖させ、品種改良した上位種を生み出し、王都を強襲する作戦ですね。まあ、どうやら襲撃直前で謎の冒険者に全滅させられてしまったらしいですが」
それを聞いて思い出します。そういえば、かつて私がやけくそになってウルガスを狩りに行った時、何かごちゃごちゃと言っていたゴブリンがいました。
なるほど、あの時のゴブリンがメティドバンさんなのですね。思わぬところで縁がつながっているものです。
「そのメティドバンさんは、どうして反乱軍を?」
「はい。実は彼は、過去にあった出来事から人類を極めて深く恨んでおりまして。魔王軍の人類にさえ攻撃的な態度に出るほどの人間嫌いなのです。だから人間と手を組む、と魔王様が宣言した結果、怒り狂い、反乱軍を結成するに至った、というわけです」
「なるほど。つまり人類に対する過激派筆頭のような人物なのですね」
「ええ、まさしく」
私の言葉を肯定するように、イチロースズキさんは頷きます。
「魔王軍にも対人類の過激派、と呼べる派閥は以前からありました。そのほぼ全てがメティドバン殿に賛成しており、現状では魔王軍の五分の一程度が反乱軍に加わっております」
「それは、相当な数ですね」
一つの組織の二割相当が敵対している、となれば魔王軍が機能しなくなるのも同然です。
となれば、私達との同盟関係についても話を進められなくなって当然でしょう。
「数も厄介ですが、相手が完全な敵ではなく身内である、というのも厄介な部分です。彼らも魔王軍の一員ですから、暴力で一方的に鎮圧、殺して終わりというわけにもいきません。現状、魔王様も可能な限り死者を出さずに鎮圧しようと動いていますが、メティドバン殿もそれを理解していますので、中々嫌らしい動きを取って苦戦しているというわけです」
それだけの厄介な条件が揃っているなら、たしかに戦力差が四倍であっても鎮圧は難しいのでしょう。
「なるほど。それで、イチロースズキさん。魔王軍としては、我々にどのような要求を?」
私が本題を振ると、頷いてからイチロースズキさんが語ります。
「はい。はっきり言ってしまえば、鎮圧を手伝って欲しいのです。犠牲を最小限に彼らを鎮圧するには、戦力が十倍は必要になります。それに、最悪彼らを『殺してしまっても問題ない』勢力が手札に加わるだけで、メティドバン殿も動きづらくなるはずです」
つまり、我々乙木商事の戦力であれば、メティドバンさん率いる反乱軍を殺して鎮圧することに問題が無い。たとえ、こちらにその気が無くとも、そういった選択を取ることが可能である、という点が大きく響きます。
殺されないからこそ、大胆な戦略をいくらでも取りうるのでしょうから。安心を一つ取っ払うだけで、反乱軍の動きをかなり制限出来るようになるはずです。
「どうでしょう、乙木さん。ご協力頂けませんか?」
イチロースズキさんは不安げに聞いてきます。これに、私はすぐに頷いて応えます。
「もちろん、乙木商事としても是非協力させて下さい。せっかく魔王軍との同盟関係が成立しそうなのです。反乱軍によって反故にされてしまってはたまりませんからね」
「おお! ありがとうございます!」
「いえいえ。さっそく、今日にでも幹部を集め、計画を立てさせてもらいます」
そう言って、私はイチロースズキさんと握手を交わし、協力を約束しました。
お久しぶりです。本日から九章の投降を開始致します。
九章完結まで毎日投降していきますので、宜しくお願いいたします。
そしてもう一つ、宣伝があります。
実は先日、当作品『クラス転移に巻き込まれたコンビニ店員のおっさん、勇者には必要なかった余り物スキルを駆使して最強となるようです。』のコミカライズ作品が連載開始いたしました!
掲載サイトは『マンガよもんが』様となっております。
コミカライズ担当は『結城焔』先生です。
とても面白い仕上がりとなっておりますので、ぜひお読みくださいませ。





