38 責任、再び
「雄一様。私もさすがに擁護できません。難儀な相手だったとはいえ、ちゃんと真摯に話し合うべきだったのでは?」
「おっしゃるとおりです」
マリアさんに言われ、何の反論も出来ずに項垂れます。
「ねぇ、八色ねえちゃんはダーリンとずっと昔から知り合いだったんだろ?」
「え、はい、そうです」
「それってどれぐらい前から?」
「えっとそれは、私たちのクラスが勇者として召喚される前からです。召喚された後も、できるだけ早く自由な時間を作って愛しの人へ会いに行きました」
「そっか。じゃあ、俺たちよりも八色ねえちゃんの方が、ダーリンとの付き合いは長いんだな」
ジョアンさんは、どうやら七竈さんと打ち解けようとしている様子。
「はぁ。まったく、心配して損しました。こういう人が居るのなら先に言っておいて欲しかったです」
「すみませんでした」
シャーリーさんも、少し怒っている様子。本気で怒っているわけではないように見えるのが、せめてもの救いです。
「しかし、こうなれば雄一殿の安全とはまた別の問題が出てきたぞ」
「ん。マルクリーヌさんもそう思う?」
有咲とマルクリーヌさんが、意見を交わし合います。
「ああ。結局雄一殿は、八色殿をどのように扱うつもりなのだ? それが定まらないことには、私達の立場も定まらない」
「そうだよな。排除するべきなのか、それとも受け入れてあげるべきなのか。それを決めるのはアタシらじゃなくて雄一だから」
言って、有咲は私の方を睨みます。
「で。そこんとこどうすんの?」
「どうする、とは」
「あー、もうっ! 責任取るつもりあるのかって言ってんの!」
有咲は言って、七竈さんを抱きしめます。
「だって、可哀想でしょ! 今まで都合のいいように使われて、放置されてさ。そんなのアタシだったら泣くだけじゃ収まんないしっ!」
「あの、いえ、別に私は、どのように使い捨てられても、愛しの人の判断であれば幸せですから」
「ほらっ! こんなこと言っちゃうぐらい尽くしてくれてんだよ! 責任感じないの?」
「そ、それは」
言われるほどに、罪悪感が湧き上がってきます。
「時に八色殿。近年は雄一殿の為に、どのような活動をしていたのだ?」
「ええと、基本は愛しの人を眺める毎日でしたけど。時々、愛しの人を狙う何者かが現れたりしていたので、そういうのの対処をしてました」
「やはりな。となると、相応の危険もあったのでは?」
「いえ、その、何度か毒で身動きが取れなくなったことがあったぐらいで、死ぬようなことは」
「いや、それは十分死に直結する危険なのだが」
マルクリーヌさんが、七竈さんがどのような献身を続けてきたのか、具体的に聞き出します。その結果、私にはさらに強く罪悪感が湧き上がってきます。
確かに言われてみれば、私の持つ権力の割に、そうした暗部から狙われることが極めて少ないとは思っていましたが。
まさか、七竈さんが対処してくれていたからだとは思ってもみませんでした。
「ほらね。八色ちゃんは雄一にこんだけ尽くしてくれてるんだよ。なのに雄一は、ストーカーされてたってだけで責任取らないつもり?」
「いや、あの。ストーカーされていたというのはけっこう大きな要因だと思うんだが」
「八色ちゃんが尽くしてくれた分と相殺出来るほど?」
「うっ」
命がけで私を守ってくれていたことを鑑みれば、ストーカー被害など些細、とは言えませんが大きな問題ではないでしょう。
「さあ。どうするのだ、雄一殿?」
「ねえダーリン。八色ねえちゃん、可哀想だよ」
「そうですね。雄一様、ここは男を見せて下さい」
「雄一さんがスケベなのは、今に始まった話じゃないですしね」
「うん。だからこそ、アタシたちはこうして仲良く手を取り合っていられるんだし。今さら嫁が増えることに、アタシらが文句を言ったりはしないよ」
五人の妻たちが、それぞれ私に向かって詰め寄ってきます。
「で、雄一。結局どうするの?」
ずいっ、と有咲が私の眼前まで詰め寄ってきます。
これは、観念すべきでしょう。
「責任を、取らせていただきます」
こうして魔王軍との戦いをきっかけに、なぜか六人目の妻を迎えることとなるのでした。





