37 お呼び出し
で、どうにか魔王軍との交渉については終了し、皆さん魔王領へとお帰りになった後。
私は深刻な表情を浮かべた、妻たちに呼び出されてしまいました。
「あの、皆さん。何かあったのですか?」
「雄一さん。これから話すことを、冷静に聞いてくださいね?」
シャーリーさんが真剣な表情で話し始めます。
「今回の、対魔王軍オペレーションの為に、本社周辺と本社内の全域を高精度な魔素感知レーダーで監視していたことはもちろん知っていますよね」
「ええ。必要だから、私が指示したことですし」
「その結果、正体不明の存在が雄一さんの周囲につきまとっていることが判明したんです」
まるで恐るべき敵を発見したかのように、シャーリーさんは語ります。
「高精度な魔素感知レーダーを使ったから発見できたんですけれど、通常のレーダーでは到底発見不可能でした。しかも、この対象、仮に敵性オブジェクトαとしますが、なんと雄一さんはもちろん、周囲の誰にも見つからないよう常に徹底した完璧な立ち回りで尾行を続けているんです。この技術から考えると、相手は相当な技術力を持った隠密なのではないかと予測できます。つまり、雄一さんは何者かによって監視されています」
「そ、そうですか」
監視、という言葉に心当たりがありすぎる為、つい返事が生返事になってしまいます。
「雄一様。もっと危機感を持って下さいな」
呆れたようにマリアさんが言います。
「ダーリン、俺、怖いよ。ダーリンが誰かに狙われてるなんて」
ジョアンさんは不安げに言います。
また、有咲も私の様子を伺いながらも、心配をしているのは間違いない様子。マルクリーヌさんは、いつでも私を守れるように、といった風に身構えています。
どうやら、これは事情を説明しなければならないようですね。
まさかこれまで何故かレーダーにすら映らなかった謎の技術でストーカーを続けてきた『彼女』が、ここで見つかるとは思っても見ませんでした。
「分かりました。全てを説明します」
そして、私は一度息を大きく吸い、声を張り上げて『彼女』を呼びます。
「七竈さん! 出てきて下さい」
「はいっ!」
私が名前を呼んだ瞬間、どこからともなく『彼女』、七竈八色さんが姿を表しました。
当然、あまりにも突然のことなので、妻たちは全員が驚いています。
「ええと、彼女がおそらく、例のαに該当する人物であり、日本にいた頃から私をストーキングしていた七竈八色さんです」
「は、はじめましてっ!」
ぺこり、とお辞儀をする七竈さん。そんな七竈さんを、妻たちは微笑ましいものでも見るような目で見た後、すぐに鋭い視線で私を貫いて来ました。
「で? どういうワケ? 説明してくれるんだよな、雄一?」
「あ、ああ。もちろん」
有咲にドスの利いた声で言われ、私は七竈さんとの出会いから、現在までの関係について説明をします。
しばらくは全員で私の話を普通に聞いてくれていたのですが、話が進むごとに呆れたような表情で私が見られるようになっていきます。
そして全てを話し終えたら、七竈さんに同情するような視線すら感じるようになりました。
「つまり、だ」
有咲が私から聞いた話を纏めようとします。
「雄一は自分に好意を持ってる女の子をあの手この手で騙して、都合のいいように利用しながら追い払って、それを今の今まで放置してた、と。そーいうことだよな?」
「ええと、まあ、うん。そういう解釈もできるかもしれない」
「サイテー」
「ぐっ」
有咲の一言が、私の胸に突き刺さります。このダメージ、ヴラドガリアさんとの戦い以上のものです。





