33 交渉タイム
「この地に訪れた時点で、勝負は決まっておった。妾に出来たのは、どれだけ身内の被害を抑えるか、という戦いだけであったのじゃな」
観念した、といった様子で項垂れたまま語るヴラドガリアさん。
「勝負は、汝らの勝ちじゃ。約束通り、どのような条件にも従おう。この首も捧げよう。じゃが、だからどうか、妾以外の者の命だけは、見逃してくれぬじゃろうか?」
決死の覚悟で言ったのでしょう。ヴラドガリアさんは深く、頭を下げて私に要求、というよりも懇願をしました。
ですが、私は首を横に振ります。
「残念ながら」
「そう、か」
「そもそも誰の命も奪うつもりはありませんので、ヴラドガリアさんの首は要りません。なのでその要求は飲めませんよ」
「なぬ?」
ぽかん、とした顔になるヴラドガリアさんに、私はさらに畳み掛けます。
「そもそも今回のゲームは、私達乙木商事の戦力を見せることで、容易くない相手であると理解してもらうこと。高い技術があると知ってもらうこと。そして、交渉にふさわしい相手であると思ってもらうことにあります」
「つ、つまり?」
「私からの要求は一つ。魔王軍の皆さんと、交渉がしたいのです」
交渉、という言葉に希望が見えてきたのか、ヴラドガリアさんの表情が少しだけ明るくなってきます。
「交渉、とは? その内容によっては、この場で約束を反故にしてでも抵抗せねばならなくなるが」
「安心して下さい。そんな、一方的に負担を押し付けるようなことはしませんよ」
私は、元より考えていた言葉を口にします。
「魔王軍の皆さんに、私から求めるのは唯一つ。私達乙木商事の人間と、魔王軍。お互いの利益のために、協力関係になりませんか?」
その要求が思わぬものであったからなのか、ヴラドガリアさんは少しだけ間をおいてから返事をします。
「協力、とはどういうことじゃ? ほ、本当に言葉どおりの意味かえ?」
「もちろんですよ。裏の意味など何も無く、本当にお互いの利益になるよう協力したいと思っています」
「じゃが、汝らはその、この国の人間であろう?」
ヴラドガリアさんの言いたいことは、つまり魔王軍と戦争をしている国の人間が、そんなことを言って良いのか、という意味でしょう。
「それも含めて、何の問題もありません。自分たちの利益のためなら、わざわざどちらか片方だけに味方する、と決めつける理由はありませんから」
あくまで利益の為、という打算的な言葉を提示することで、逆にこちらの主張に真実味をもたせていきます。
狙い通り、ヴラドガリアさんもこちらの言葉をある程度信用してくれているようです。
「そうか。ならば、分かった。まずは話を聞こうではないか」
「魔王様っ!」
「よい、サティーラ。そもそも妾らは選択権を持たぬのだ。自惚れの代価と思って、ここは大人しくせよ」
サティーラさんが口を挟もうとしましたが、それもヴラドガリアさんが制します。
「では、交渉に入りましょうか。とは言っても、この場所では何かと不都合です。ゆっくりと話が出来る部屋へとご案内しましょう」
私はそう言って、部屋の一角にある壁に向かい、そこに手を翳します。
すると、壁に隠蔽して埋め込まれている魔導機器が反応し、私の魔力を識別。それによりロックが解除され、壁が左右に開きます。
隠し扉の向こうには、広々としたエレベーターが現れました。
「それでは皆さん、付いてきて下さい」
私がエレベーターに先んじて入ることで、他の皆さんも不安げにしながらも入ってきてくれました。





