32 災禍の化身現る
「小手調べなどせぬッ! 全力でゆくぞッ!」
ヴラドガリアさんは即座に闘気と深淵の魔力を纏い、全力で戦う体勢を整えます。
「ええ。同感です」
そして私も同様に、全力で戦う為のスキルを発動させます。スキル『災禍』を始めとする、忌まわしきスキル達。相手に著しいデバフを掛け、私は待ち構えます。
「なんじゃ、これはッ?」
困惑するヴラドガリアさん。しかし、攻撃の手を緩めるわけにもいかないのか、私にそのまま突撃してきます。
さすが魔王とでも言うべきでしょうか。デバフを食らってもまだなお、その身体能力は高く、限界突破前の金浜君すら上回っています。
しかし残念ながら、その攻撃を私が受けることはありません。
「いらっしゃいませ」
「なっ」
私はヴラドガリアさんの攻撃を、流れるような自然な流れで受け流し、その勢いすらも利用して追撃を加えます。
予想すらしていない、高度な格闘術に翻弄され、ヴラドガリアさんは驚きの表情を浮かべたまま吹き飛んでゆきます。
実は、この技術には単純な種があって、私に特別な格闘術の才能があるわけではありません。
何を隠そう、私は現在進行系で有咲のチートスキル『カルキュレイター』を発動させているのです。
あらゆる情報を受けとり、そこから正解を導くカルキュレイター。その効果を近接格闘戦に使えば、相手の攻撃を受け流し、利用して反撃を加える、ある種の合気道のような高度な技に見える動きを再現可能になるのです。
有咲と共に訓練を続け、今では私がカルキュレイターを発動し続けることが可能な時間は三十分程度にまで伸びました。
つまり、私は今から三十分の間、近接格闘戦を挑んでくる、正にヴラドガリアさんのような相手に対して無敵にも近い戦闘能力を維持可能なのです。
「まさか、斯様な達人であったとはのうッ!」
「いえいえ、自分は達人などでは」
「ぬけぬけとッ!」
ヴラドガリアさんは次々と攻撃を繰り出しますが、私はその全てをいなし、かつ的確に反撃を加えていきます。
さほど大きなダメージではないでしょうが、それでも無視できるものでも無いはず。状況は、ヴラドガリアさんにとって著しく悪いと言えるでしょう。
「それにしても、いいのですか?」
「なにがじゃ?」
「こんな私の手に、触れられてしまって」
私に言われ、ようやく気づいたかのようにヴラドガリアさんはハッとして、距離を取ります。
「そうじゃったか。妙に力を奪われてゆくと思っておったが、まさかお主が毒手の使い手であったとは」
「まあ、毒手というよりは呪いの手なんですが。おおよそ当たりです」
私の血は『災禍』により汚染された『詛泥』という存在に変わっています。なので私の手は無論、全身が呪いの塊であると言えるので、接触するだけでダメージ、デバフを叩き込めるわけです。
「さらに、ですが。すでにお気づきかと思いますが、周囲にはヴラドガリアさんを蝕むデバフの元凶をたっぷりばら撒いてあります。もう逃れる術はありませんよ」
「この黒い霧のようなものがそうじゃな?」
ヴラドガリアさんは、辺りにうっすらと漂っている黒い物体、私が『瘴気』スキルで生成し、辺りに散布した『詛泥』と『災禍』の混合物に目を向けます。
「この霧が濃くなるほどに、ヴラドガリアさんの能力は低下していき、常時ダメージを負い続ける。すでに、ヴラドガリアさんに勝ち目はありませんよ」
「なるほどのう。じゃが、それは妾が格闘一辺倒であるならば、じゃろうッ!」
言って、ヴラドガリアさんは深淵の魔力を解除します。
「この程度の『魔法』であれば、妾の『吸魔の魔眼』であれば問題なく蹴散らせるのじゃッ!」
そして、ヴラドガリアさんは吸魔の魔眼を発動させました。
ここまで、正に私の『計算通り』の展開です。
つまり、これでチェックメイト。
吸魔の魔眼を発動したはずのヴラドガリアさんは、途端に顔を青ざめさせます。
「な、なんじゃ。これは、こんな、斯様なものがあるはずが無いのじゃッ!」
恐れのような感情を顔に浮かべ、ヴラドガリアさんは叫びます。
「ありえぬ。こんなもの、見たことが無いッ! 魔法でも、ましてやこれは、ある意味では『スキル』でも無いッ! 全くの、未知の力じゃッ!」
ヴラドガリアさんの言葉に、私はにっこりと笑みを浮かべて応えます。
「ご明察。私のスキル『災禍』は、魔法でも、物理現象でもない『第三のエネルギー』を生み出すスキルです」
「そうか、それがお主の力か」
ヴラドガリアさんは諦めたように項垂れます。
「そうか。お主こそが、かつて我が配下からの報告にあった『災禍の化身』、その人であったのじゃな。まさかこれほどとは」
そして、悔しそうに一言。
「妾の、負けじゃ」
こうして、一方的とも言える展開のまま、最終関門の決着は付きました。
一挙連続投稿、八日目終了です。
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