25 薬草採取とスキル付与
男をあしらった後、私はギルドで依頼の確認をしました。
依頼は大きく分けると二種類が存在します。
一つは通常の依頼。一件ごとに一人の冒険者、あるいは一つの冒険者パーティが担当し、依頼が達成されたら終了するタイプのものです。
もう一つは常設依頼と呼ばれるもの。
例えばウルフ退治や薬草採取といった、いくらでも、いつでも存在する仕事のことです。こうしたものは特に依頼の受注処理をしなくても、討伐証明部位や採取した物品を持ち込めば、その時点で依頼達成として処理をしてくれます。
そして何度達成しても、常設依頼が取り下げられることはありません。
私が依頼を確認したのは午後に差し掛かったぐらいの時間だったので、既に手頃な依頼は残っていませんでした。なので今回は特に受注はせず、常設依頼を処理することにします。
中でも私が狙うのは、薬草採取です。いくつか理由はありますが、最大の理由は私が弱いからです。武器も持たず、ステータスも低いのですから。魔物の討伐依頼など受けるわけがありません。
というわけで、私は身支度を整え、薬草採取場所として指定されている森にやってきました。王都を出ると半時間ほどで到着する場所にあります。これはもちろん、新人マニュアルに書いてあった知識によるものです。
新人マニュアルとは名ばかりで、その内容はかなり精細な部分まで冒険者の活動に関わる情報がまとめられていました。主要な近隣の採取場所、魔物の生息状況、生態、弱点まで。
冒険者としての活動のいろはだけでなく、生存率や稼ぎに関わるような情報が山のように載っていました。
これを読まない新人というのは、かなり勿体無いでしょう。
とは言っても、仕方のないことですが。冒険者は識字率が高くありません。簡単な単語と数字ぐらいなら分かる人も多いですが、本を読むのは厳しいでしょう。代読を頼むとなるとお金も掛かります。誰も読もうとしないのも自然なことなのです。
さて、私はマニュアルを読み込んで得た情報を頼りに、薬草を採取していきます。一種類だけではありません。常設依頼に存在する薬草、全てを採取します。
採取した薬草ごとに、別々の袋へと入れていきます。そして一杯になった袋は、アイテム収納袋の中に入れます。そしてアイテム収納袋から、また新たな袋を取り出します。
なんと、アイテム収納袋の中には冒険者には必需品と言えるようなものがしっかりと揃っていたのです。採取物を分別する為の革袋が十数枚。金貨数枚と銀貨と銅貨。解体用のナイフに、水袋や最低限の野営道具まで。さらには魔法陣を描くための触媒筆まで入っています。
シュリ君には感謝してもしきれませんね。本当に可愛くて頼りになる師匠です。
次々と薬草を採取していきますが、順調に全て事が進むわけではありません。
この森にはゴブリンという魔物が生息しています。人肉を好み、棍棒などの原始的な武器を扱える知性ある魔物です。
彼らは時に待ち伏せ、奇襲をして冒険者を襲います。一人で採取をしていると、気付けば取り囲まれていた、なんて話も数多くあります。ちなみに、これもマニュアル知識です。
とまあ、無駄なことを考えている間に私が囲まれてしまいました。ゴブリンが五体。棍棒だけでなく、ボロボロの短剣を持っている個体も居ます。
一体が私に襲いかかってきます。棍棒を振り上げ、私の頭を狙ってきます。私は、これを回避しませんでした。
棍棒はごふっ、と鈍くゆるい音を立てて、私の羽織るボロ布のローブに弾き返されます。
「ゲギャッ?」
ゴブリンはわけがわからない様子で、こちらと棍棒を順に見比べています。
分からないのも無理はありません。何しろ、このボロ布ローブは三つもスキル付与した特製防御ローブなのですから。
現在、このローブには『形状記憶』と『衝撃吸収』、そして『耐刃』のスキルを付与しています。
形状記憶と衝撃吸収は、ギルドカードにも使われている軟鉄という魔法金属の持つスキルです。叩いても衝撃を吸収し、変形しないという非常に優れた性質を持ちます。
ただ、軟鉄の場合は刃を通すことが難しいのですが、ボロ布の場合は刃を通してしまいます。なので、刃物や爪、牙といったものへの対策として耐刃も付与しています。
耐刃は、ハリワタフジと呼ばれる植物から得られる素材、針綿が持っているスキルです。針状の硬い繊維が混じった綿毛で種子を包む性質がある植物で、この針綿が魔物の牙や胃の消化液から種子を守ります。なので、もし食べられても糞の中に混ざって土に還り、芽を出すことができます。
この針綿が持つ強靭な防刃性能を、ボロ布に付与したわけです。
ちなみに、形状記憶と衝撃吸収は非生物であれば何でも良いという緩い条件。そして耐刃は素材が植物性の繊維であれば良いという比較的達成しやすい条件でした。
なので、このボロ布のローブ、綿製の古着を街で購入し、こうしてスキル付与して使っているというわけです。
そうとも知らぬゴブリンは、私が得体の知れない強敵か何かだと勘違いしているようです。五匹もいて、足踏みして躊躇っています。
ここは、別のスキルを使って追い返してやりましょう。
本日の連続投稿は以上となります。
乙木が、少しずつ頭角を現していきます。
ですが、今はまだひねくれたただのおっさんですね。
これからの乙木にご期待下さい。
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