31 最終関門
別れ際に匂いを嗅がせてくれ、とせがんで来た三森さんの「んほぉ」という声を背にして、私達はいよいよ最終関門へと向かいます。
ここが突破されてしまえば勝負は負け。乙木商事は、壊滅と言っていいほどの被害を受けてしまいます。
逆に、ここで勝てば私の当初の予定通りに話を進めることも可能となります。
予想はしていましたが、やはり最終関門が勝負の分かれ目となるようです。
そうして最終関門の扉を開くと、中で待っていたのは一人の女性。
「待ってたよ、雄一」
そう。私の愛する妻たちの一人。有咲です。
「待たせたな、有咲」
「ううん。こっちはモニターでも色々見てたから。カルキュレイターもバッチリだよ」
「ありがとう」
言って、私は有咲の頬にキスをします。
呆れた様子で私と有咲の方を伺っている魔王軍の皆さんへと振り返り、話をします。
「では皆さん。ここが最終関門です」
「そこの者が、最終関門の相手かえ?」
「いいえ。彼女は有咲。私の妻です。ここでは、あくまでも勝負の見届人に過ぎませんよ」
私が言うと、有咲も頷きます。
「その通り。アタシが見届人で、アンタらの相手は別にいる」
「それは誰じゃ?」
「アンタらの目の前にいるでしょ。アタシの旦那様。乙木雄一だよ」
有咲に言われ、私は一度魔王軍の皆さんに向かってお辞儀します。
「ご紹介に預かりました、最終関門担当の乙木雄一です」
「ふむ、やはり汝が最後の相手か」
納得したようにヴラドガリアさんは頷きます。
「最初に汝が見せた魔力は、妾には及ばずとも先ほどの勇者らには匹敵する程であったように思う。それだけの実力があれば、関門を務めるのも頷けるのじゃが」
そこまで言って、鋭い視線をヴラドガリアさんは私に投げ掛けます。
「しかし、所詮その程度とも言える。勇者らと同程度の力しか持たぬお主が、本当に妾を相手に出来るのかえ?」
ヴラドガリアさんの指摘はごもっとも。実際に、私のステータスは以下の通りでしかありません。
【名前】乙木雄一
【レベル】2385
【筋力】SSSS
【魔力】SSSS
【体力】SSSS
【速力】SSSS
【属性】なし
【スキル】ERROR
表記上では金浜君と同程度ですが、彼をSSSSの中位程度だとすれば、私はSSSSの下位。どうにかSSSSに届いた程度、という数値に過ぎません。
「ナメてんじゃねーぞ、ちびっ子」
ヴラドガリアさんの疑うような発言に返したのは有咲でした。ちびっ子、と言われて嫌そうに眉をしかめるヴラドガリアさんに、さらに有咲が言葉を浴びせます。
「むしろ覚悟しときな。アタシの見立てでは、雄一はアンタにほぼ確実に勝てる。言い訳も出来ねえぐらいボコボコにしてやるよ」
「ほう、それは面白い冗談じゃのう?」
不敵な笑みを浮かべ、有咲の挑発に言い返すヴラドガリアさん。
戦う張本人である私を差し置き、なぜかヴラドガリアさんと有咲の間で盛り上がっていますね。
「ともかく、始めましょう。全ては戦えば分かることですから」
私が言うと、ヴラドガリアさんと有咲が同時に頷きます。
「そうじゃな。結果が全てじゃろう」
「雄一。全力でね。『アレ』も使っていいから」
「分かったよ」
有咲の言葉に応え、頷きます。
やがてヴラドガリアさんも構え、互いに準備が完了すると、有咲が宣言します。
「そんじゃあ、最終関門、開始っ!」
いよいよ当代の魔王と、余り物スキルを押し付けられた召喚者による戦いが始まります。





