25 無能の大賢者
「千年前の偉人が、まさか今も生きていようとはな」
ヴラドガリアさんが、シュリ君を警戒するような視線のまま呟きます。
これにシュリ君は、困ったような表情を浮かべて返します。
「千年前、とか言われちゃうとボクがそんなとんでもないおじいちゃんみたいで嫌なんだけど?」
「じゃが、事実であろう?」
ヴラドガリアさんの問いかけに、シュリ君は首を横に振ります。
「言っとくけど『この身体』で目覚めてからはたったの百五十年ぽっちしか生きてないんだから。まるで千年ずっと生き続けたヨボヨボのおじいちゃんみたいな言い方はこまっちゃうなぁ」
「ほう。やはり汝のその身体は『人ならざる者』であったか」
周囲を置いてきぼりにしたまま、二人は話を続けています。
私も内容こそ理解は出来ていますが、正直驚きは隠せていません。
「アハハ、その通りッ! ボクの身体は失敗作も含めてこれで『三体目』の『ホムンクルス』だよ! 試行錯誤して、ようやく理想の肉体を手に入れたのがこの身体さ。まあ、そのお陰でこんなことも出来るんだけどね?」
シュリ君はそう言った瞬間、魔法陣を描きます。
「ぐうッ!」
そして瞬時に発動した魔法が、レオニスさんの身体を光の輪で拘束します。
「駄目だよ君、人が話してる時に割り込もうとしちゃあね?」
「な、なぜ」
「分かるよ。この身体は特製だからね。目も普通じゃ見えないものが色々見えるんだよ」
言いながらシュリ君はレオニスさんへと近づいていきます。
「ヘビって知ってるかな? 彼らは人間の持つ視力とは、また異なる感覚器官を持っているんだよ。その器官は温度の高低を感知できる。羨ましいよね? だからボクはそうなるようにこの目を『作った』んだよ」
恐ろしいものでも見るかのように、レオニスさんの表情が変化します。そして、シュリ君から視線を逸らします。
「もちろん温度だけじゃない。魔力の濃淡に透視的な視界。電磁気の強弱から、微視的な視覚、遥か遠くを見通す視力。そういった色々な要素を持ち合わせているから簡単に分かるんだよ」
「な、何を」
「キミが、ボクを狙って動こうとしていたことが。筋肉が緊張して、力んで、こっちへと走ってこようとしているのが手にとるように分かったよ。だからボクは魔法陣を書いて、キミの邪魔をさせてもらった。シンプルな話でしょ?」
シュリ君に事細かな説明を受けて、それがどれだけの差になっているのか。自身が勝てる可能性がどの程度なのか、ということをレオニスさんに考えさせたのでしょう。
「吾輩の、負けだ」
レオニスさんは、自然と項垂れ、自身の敗北を認めました。
「第五関門、勝者、シュリ君」
なんとも言えない決着の付き方に、私は声を張り上げる気にもならず、呟くように宣言しました。
するとシュリ君はこちらに駆け寄ってきます。
「へっへ~ん、勝ったよオトギンっ!」
そして私に抱きついてきます。
「さすがシュリ君ですね。期待通りでした」
「そう? むしろボク的には期待外れ的な感じ? 魔王たんには負けるだろうけど、他の子たちにはもうちょっと善戦してくれないかな~、って思ってたんだけど。スリーディーペンで戦う機会なんて滅多に無いんだし」
言って、シュリ君はスリーディーペンを掲げてみせます。
「まあ、こうして戦えるのはオトギンがこれを作ってくれたお陰だね。ありがと、オトギン!」
「どういたしまして」
「うおっほんッ!」
私とシュリ君がイチャイチャしていると、後ろから大きく咳き込む声が聞こえてきます。
「汝ら、いちゃついておる場合ではないじゃろうが。次は妾が戦う番であろう?」
そう言って、ヴラドガリアさんが前に出てきます。





