22 獣王と雷光
マルクリーヌさんの意志に従い、分離し弾け飛ぶTAのパーツ達。これこそがTAの最後の頼みの綱。スピードに関する機能を持つパーツ以外を全てパージすることで、速度だけを最大限に高める緊急回避用モード。
ただし、欠点として速度以外の全てを削ぎ落としている為、防御力はもちろん、魔導セイバーの出力も通常形態に劣ります。
唯一使えるのは速度に使う出力も全て攻撃に回すことで、一度だけ放つことの出来る兵装ただ一つだけ。
「ぬうッ!」
当然、それだけのリスクを代価に得た速度は今までよりもさらに一段階上がったものになります。レオニスさんの拳はギリギリで空を切り、マルクリーヌさんの回避が成功します。
「そこだァァァアッ!」
そして、マルクリーヌさんはここで逃走ではなく、攻めることを選びました。
魔導セイバーを握る右手、ではなく。
緊急回避用モードでも、唯一十分な出力を確保出来る兵装、左手に仕込まれた、雷の魔法を杭のような形に圧縮して打ち出す機構、いわゆるパイルバンカーを発動します。
「グオォォォオオッ!」
マルクリーヌさんの攻撃は見事に決まり、レオニスさんの腹部に直撃します。
雷の杭がレオニスさんの分厚い腹筋すら貫き、衝撃と雷の魔法による二重のダメージを与えます。
このダメージでレオニスさんが倒れてくれれば、マルクリーヌさんの勝利です。
しかし、現実は非情でした。
「吾輩は、負けぬゥッ!」
レオニスさんは全身を駆け巡った雷のダメージすら耐えきり、さらなる追撃の拳をマルクリーヌさんに振るいました。
パイルバンカーに出力を回したため、速力強化の効果が落ちたマルクリーヌさんには、回避する術がありませんでした。
「がふッ!」
直撃を受けたマルクリーヌさんは吹き飛ばされ、何度も地面を跳ね、転がり、壁際まで行ってようやく止まります。
行動不能になるほどのダメージを受けたのか、マルクリーヌさんは起き上がることが出来ませんでした。
「勝者、レオニスさんッ!」
私は第四関門の決着を宣言すると、すぐにマルクリーヌさんへと駆け寄ります。
「うぐっ、雄一殿。すまない、負けてしまった」
「いいえ、マルクリーヌさんはよくやってくれました。素晴らしい戦いでしたよ」
「そう言ってもらえると、嬉しいな。ふふ」
痛みをこらえながら、マルクリーヌさんはなんとか笑みを浮かべます。
そんなマルクリーヌさんと私の方へと、レオニスさんが歩み寄ってきます。すでに変化は解け、本来のレオニスさんの姿に戻っています。
「雷光よ。人間の戦士とは思えぬ程の、良い戦いぶりであった」
と、レオニスさんはマルクリーヌさんを称えるような言葉を口にします。
「あの鎧を脱ぎ捨てた時、お前の速さは獣王降ろしをした吾輩を上回っていた。あそこでお前が逃げに徹していれば、獣王降ろしの時間切れで吾輩が負けていただろう。だが、あの場面でお前は勝利を求め、前に出た。その心意気こそ、戦士の証。吾輩は、強き戦士を尊敬する。それがたとえ、人間であってもな」
その言葉が意外なものだったので、私はつい驚きの表情を見せてしまいます。まさか、魔王軍の方から人間へと歩み寄るような言葉が聞けるとは思っていませんでした。
そんなレオニスさんの言葉を受けて、マルクリーヌさんは私の肩を借りながら、なんとか立ち上がります。
「貴方ほどの力を持った相手に評価してもらえるのは、騎士として光栄だよ。いい勝負だった」
そう言って、マルクリーヌさんは右手を差し出し、レオニスさんに握手を求めます。
「うむ」
そしてレオニスさんはマルクリーヌさんに応え、右手で握手を返しました。





