17 掴み取った勝利
大剣がサティーラさんの魔法を切り裂き、消し飛ばします、そして渦巻いていた炎の魔力が解き放たれ、サティーラさんを取り囲みます。
「くそ、これはッ!」
炎の渦はサティーラさんに熱のダメージを与えるだけでなく、サティーラさんを拘束し、身動きを取りづらくする効果がありました。
必殺技も破れ、拘束までされたサティーラさんに、ジョアンさんが迫ります。
「俺は負けないッ!」
「そんな未来は、来ないッ!」
サティーラさんは足掻くように、闇の魔力を一気に開放。まるで触手のような魔力が黒翼から滲み出て、ジョアンさんの大剣を迎え撃ちます。
一本の大剣に、二本の触手。ジョアンさんは、最後の最後で攻めきれていないように見えました。
が、しかし。
「それでも、俺はこの手で未来を掴むッ!」
ジョアンさんは諦めず、真紅の魔剣が持つ能力を開放します。
「行くぞッ! 『パージ』ッ!」
その宣言と同時に、魔剣は光を放ち、その光が迸った部分から分解されて、合計五つの大小様々な剣へと分かれます。
「何だとッ!」
サティーラさんが驚くのも無理はありません。何を隠そう、この分離機能こそが、ジョアンさんの持つ大剣の最大のギミック。
真紅の大剣は、我が乙木商事の技術の粋を集めて作られた『五本の魔剣』を合体させた姿だったのですから。
私が『機構剣』と名付けたこの魔剣。五つで一つの状態の時は、五つの魔剣が持つ効果全てを発揮する合算モード。ただし、合体状態ということもあり、五つの効果は全体に分散していることによって平均され、単独の剣のみで発揮できる効果よりも低くなっています。
この状態から、パージというキーワードを唱え魔力を流すことによって五つの魔剣に分離。分散モードと呼ばれるこの状態なら、魔剣一つごとの効果が最大限まで高められ、発揮されます。
まず第一の魔剣『アロンダイト』。合算モードのベースとなる剣で、大剣の軸とも呼ぶべき魔剣です。付与されている効果は『破壊耐性』などを中心に、頑強さを補強するものばかり。
今もジョアンさんの手に握られており、二本の触手と衝突しながらも、軋む様子すらない最も硬い剣です。
ジョアンさんは、このアロンダイトを囮にするつもりのようです。触手がしっかりとアロンダイトの刃を受け止め、絡まったのを見ると、すぐに手を離して次の魔剣を手に取りに向かいます。
「攻めるッ!」
次にジョアンさんが手にしたのは、第二と第三の魔剣。片刃の幅広なショートソードという形状の『ウインドミル』。これは二本で一つの魔剣であり、その効果は使用者の身体能力、剣閃の速度上昇に特化したもの。
この二本の魔剣を握ったジョアンさんは、目にも留まらぬ速さでサティーラさんへと接近。即座に連続攻撃を叩き込みます。
「グゥッ!」
咄嗟に腕を交差させ、闇の手甲でガードを固めるサティーラさん。ですが、ジョアンさんはこれも見越していたのかさらに魔剣を持ち替えます。
「砕けろッ!」
次に手に取ったのは第四の魔剣。まるで斧のように分厚く幅広い刃を持つ片刃の剣。その名は『バスターブレイド』。破壊力に特化した効果が付与されており、その単純な攻撃力は五本の魔剣の中でも最大のもの。
ジョアンさんはこのバスターブレイドを力強く振り下ろし、サティーラさんの守りを力づくで破壊します。
闇の手甲は攻撃の威力に耐えきれず、砕け、サティーラさん自身も衝撃に吹き飛ばされます。
「ガッ!」
その重い一撃に怯んだ隙を見て、ジョアンさんは最後の一撃の為にさらに魔剣を持ち替えます。
「これで、終わりだァッ!」
第五の魔剣『フランヴェルジュ』。ごく普通のロングソードのような見た目をしているこの魔剣ですが、その効果は特殊です。注いだ魔力に応じて自在に炎の魔法を発動し、威力を高めるのです。
そうして生み出された炎の揺らめく姿から名付けられたこの魔剣が、魔力を込めることも含めるならば五本の魔剣で最大の破壊力を発揮します。
そんなフランヴェルジュをジョアンさんは構えて、魔力を流し、揺らめく炎の魔法と共に勢いよく振り下ろしました。
「グワァァアァアッ!」
ジョアンさんに取って最大最高の一撃を受けて、サティーラさんは絶叫します。闇の触手も消して防御に専念しているものの、それすらも破壊し、ジョアンさんの炎がダメージを与えます。
やがてフランヴェルジュの一撃が、炎の魔力が収まった後には、ダメージを受けて倒れ伏したサティーラさんの姿がありました。
「勝負あり! 勝者、ジョアンさん!」
文句無しの決着でしょう。私はジョアンさんの勝利を宣言します。
「俺の、勝ちだ!」
勝利をその手に掴み、満足した様子で、ジョアンさんは言いました。そして力を使い果たしたのか、その場に倒れ込みました。





