16 炎の英雄
初手は、両者共に全力の一撃。正面からのぶつかり合いでした。
「ハアァァァッ!」
「負けるかァッ!」
サティーラさんは闇の手甲を、ジョアンさんは真紅の魔剣を互いに振るい、ぶつけ合います。
その結果、一撃の威力で勝っていたのはジョアンさん。威力の差によって、サティーラさんだけが大きく吹き飛ばされます。
「クソッ!」
「一気に決めるッ!」
ジョアンさんは、更に前へ出ます。
真紅の魔剣を構え、なんと『魔力』を流しこみます。
すると、魔剣は赤い光を放ち、同時に魔法の炎を生み出し、纏うようになります。
「これが、俺の力だァッ!」
宣言し、炎を纏った大剣を、横から薙ぎ払うように振るいます。
その威力を警戒してか、さすがのサティーラさんも手甲で直接受けるようなことは無く、先に闇の魔力で壁を生み出してこれを受け止めます。
しかし、ジョアンさんの方が一枚上手。その威力は闇の壁すらものともせず、あっさり打ち砕き、防御の構えをしたサティーラさんをあっさり吹き飛ばします。
「グアァァッ! ま、まさかこんなッ!」
警戒していた以上の威力に、サティーラさんは驚きを隠せない様子。
それも当然でしょう。今やジョアンさんの能力は、召喚勇者すらも圧倒するほどに成長しているのですから。
そのステータスは、以下の通り。
【名前】ジョアン
【レベル】87
【筋力】S
【魔力】A
【体力】S
【速力】S
【属性】炎
【スキル】不屈 逆境 一点突破
そう、ジョアンさんの成長度合いは、私の知る限りの範囲では群を抜いて高いのです。
中でも、属性の部分。元々は属性を持っていなかったジョアンさんですが、成長と訓練の過程で属性を後天的に獲得。
これは記録にこそ残っているものの、歴史上でも非常に稀有なパターンです。
さらには、ジョアンさんのスキル。元々持っていたスキル『不屈』に加え、『逆境』は自身の体力が少なくなるほどに能力が上昇するスキル。そして『一点突破』は、防御系の魔法やスキルに対する特攻効果と、攻撃力の超上昇効果を併せ持つスキルです。
これら全て、ジョアンさんの修行の成果。
私の妻としてふさわしい実力を、と求めたジョアンさんの頑張りが実を結んだのです。
そんなジョアンさんのことを、乙木商事の警備部門に所属する従業員たちは『炎の英雄』なんて呼び方をすることもあります。
それだけジョアンさんが成し遂げたこと、大幅な成長と属性の後天的発現、スキルの習得というのは難しいことなのです。
「ならばッ! 出し惜しみはしないッ!」
覚悟を決めた様子で、サティーラさんが構えます。
「最大出力の我が奥義、カオスインパクトで貴様を迎え撃つッ!」
「望む所だ! 俺は、そんなアンタの最大の技を打ち破って、勝利を掴み取るッ!」
サティーラさんに応えるようにして、ジョアンさんも大剣を構えます。大剣に込められた魔力が、まるで竜巻のように刃の周りを渦巻き始めます。
対するサティーラさんも、前回よりも数倍は大きな光と闇の魔力を生み出し、力技、といった様子で混ぜ合わせ、一つの場所に押し込んでいきます。
やがて双方準備が終わったのか、自然に、同時に攻撃を繰り出します。
「喰らえェェエッ!」
「受けて立つッ!」
ジョアンさんに向けて放たれる、サティーラさんの魔法。これを迎え撃つように、ジョアンさんは前に出て、魔法に向かって大剣を振り下ろします。
二人の攻撃は衝突し、バチバチの魔力の弾ける音を響かせながら、拮抗した状態を保ちます。
ですが、それでも不利なのはジョアンさんの方。サティーラさんが魔法による遠距離攻撃であるのに対して、ジョアンさんは大剣を使った直接攻撃。魔法との衝突の余波を、その身で直に受けているのですから。
「くっ、それでも、俺は勝つんだ!」
ダメージを受けながらも、ジョアンさんは大剣を構えたまま一歩、また一歩と前へ進んでいきます。
「そんな馬鹿なッ!」
驚くサティーラさん。しかし、ジョアンさんが魔法を弾きながら、前へと進んでいるのは事実です。
「俺の辞書には、諦めるなんて言葉は無いんだァッ!」
そしてとうとう、ジョアンさんの大剣がしっかりと振り下ろされます。サティーラさんの魔法に打ち勝ったのです。
一挙連続投稿、四日目終了です。
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