14 二人の要望
戦闘が終わり、サティーラさんは外した指輪を付け直します。すると、翼を黒く染めていた魔力が霧散し、元通りの白い翼に変わりました。
「ふん、言っておくが、殺生は無しというルールを忘れたわけではない。死ぬほどでは無い程度に威力は押さえてあった」
「ええ、分かっていますよ」
つまり、自分の魔法が無効化されたのは本気ではなかったからだ、と言いたいのでしょう。
そうやってサティーラさんがある種の負け惜しみのような言葉を漏らしていると、ティオ君とティアナさんが私の方へと近づいてきます。
「ごめんなさい、パパ」
「負けちゃった」
悲しげな表情を浮かべ、二人は謝ります。
「二人とも、大丈夫ですよ。むしろ、二人は頑張っていました。サティーラさんを相手に最初は圧倒していたんですから。隠した実力を引き出すほどだったんですから、十分すぎる結果です」
考えようにもよりますが、今回は第二関門を圧倒する実力で突破されたというよりも、まだ第二関門なのに相手の一人に切り札を切らせたと考えた方がいいでしょう。
それだけ私たち乙木商事側の戦力が優れているという証明にもなっています。目的を考えれば、勝負には負けたもののトータルで見れば悪くない結果です。
「じゃあ、ごほうび」
「ちょうだい?」
「そうですね。二人は何が欲しいのですか?」
問いかけると、二人は頬を赤く染めて、熱い瞳をこちらに向けながら言います。
「キス、してほしい」
「ママにしてるのとおんなじくらい、パパに愛してほしい」
と、二人は無茶な要求をしてきます。
「ええと、それは」
「だめ?」
「わたしたち、頑張ったのに?」
うるうると、泣きそうな顔をして問いかけてくる二人。私としては、二人とはちゃんと親子の関係でありたいと思っているので、こういう要望は困ってしまいます。
恐らくは出会った当初のマリアさんからの入れ知恵による、三人のうち誰か一人でも籍を入れることが出来れば、という計画が尾を引いた結果なのでしょう。
しかし、だからと言って頭ごなしに拒否しても二人を傷つけたり、むしろ頑なな態度を取られたりしてしまう原因になりかねません。
悩みに悩んだ末、私は妥協点となる解決案に思い至り、実行します。
「二人とも、こっちへ」
「わっ」
「パパ?」
私は二人を抱き寄せると、その頬にキスをします。いやらしい意味ではなく、家族に対する親愛の意味を持って。
「これで、勘弁してくれますか?」
「うーん、まあ、許す」
「ママも、パパは少しずつ籠絡すればいけるって言ってたし」
と、何やら物騒な発言が聞こえたりもしましたが、どうにかこの場は切り抜けられたようです。
まさかとは思いますが、二人のこうした態度がマリアさん公認であるとかいうことは無いですよね。
恐ろしくて二人には聞けないので、そんなことあるはずが無いと思っておくことにしておきましょう。





