13 黒翼の天使
追い込まれているサティーラさんですが、やられるばかりではない様子。
「この、程度でェッ!」
叫ぶと同時に、サティーラさんは全方位へと光の魔法を放ちます。魔力をそのままぶつけるような、単純な攻撃。
ですが、だからこそティオ君とティアナさんの魔道具では攻撃を逸らしきるのが難しい。
「くっ」
「邪魔」
魔法の圧力で防御を突破されるのを避けるため、二人は咄嗟に後方へ跳んで下がります。
全方位攻撃であるからこそ、サティーラさんの光の魔法は距離が離れるほどに加速度的に威力が減衰します。
バックステップ一回だけで、威力の低減は十分。ティオ君とティアナさんは手甲の魔道具で防御フィールドを展開。魔法を弾き、逸らすことで防御します。
ですが、これこそがサティーラさんの狙いだったのでしょう。こうして距離を空けたことで、サティーラさんには余裕と時間が生まれました。
「まさか、この程度の相手に私の真の力を見せることになるとはなァッ!」
言いながら、サティーラさんはその指に装備している、一つのリングを外します。
すると、途端にサティーラさんの身体を黒い魔力、闇の魔力が覆い始めます。また、魔力が侵食するようにして、サティーラさんの白い翼が黒く染め上げられます。
「これは?」
「変身した?」
サティーラさんの変化に、二人は警戒して近寄りません。そしてサティーラさんは、悠然とした態度で二人に語りかけます。
「この、光の民たる天使族にあるまじき、忌まわしい黒翼こそが私の真の姿。魔王様のお心遣いによって普段は闇の力を封じてはいるが、今はその枷も外しているッ! つまり私は、天使族の光の力と、忌まわしき闇の力とが合わさっているのだッ!」
「これは、かっこいい」
「最強に見える」
光と闇の合わさったサティーラさんを見て、恐怖よりもむしろ興奮した様子のティオ君とティアナさん。
ここからが、戦いの第二フェーズのようです。
「ゆくぞッ!」
サティーラさんは宣言すると、即座に二人へ目掛けて急接近します。
倍以上に素早くなったサティーラさんの動きに、二人は咄嗟に反応が出来ていませんでした。
闇の魔力で手足を包み、黒い手甲のようなものを生み出したサティーラさんが二人へと殴りかかります。
「くっ!」
「つよいっ」
二人は咄嗟に防御したものの、その上からでも強い衝撃によって十分すぎるダメージを受けてしまった様子。
魔導セイバーを使い、即座に切り返しますが、それもサティーラさんの闇の手甲により弾かれ、まったくダメージを与えられず、追加効果すら発生しません。
闇属性の魔力は他の魔力を侵食し、魔法の発動を阻害するような効果を発揮させることも可能ですからね。恐らくは、そのせいで魔導セイバーの効果が出ていないのでしょう。
「フハハハッ! 所詮はこの程度かァッ!」
調子に乗った様子で、サティーラさんが二人を煽ります。二人は悔しそうな表情を浮かべますが、反論はせずに攻めの手を休めず攻撃し続けます。
ですが、さすがに実力差が大きいのでしょう。決定打を与えられず、じりじりと追い込まれていきます。
「では、そろそろお終いとしようか!」
サティーラさんは言うと、一際強く打撃を二人へと叩き込みます。
その衝撃に、吹き飛ばされる二人。そして距離が空いたのを利用し、サティーラさんが魔法を発動させます。
「喰らえッ! カオスインパクトッ!」
サティーラさんは、発動させる魔法の名を叫びます。
右手には光の、左手には闇の魔力を集め、それを合掌するようにして一つに合わせます。そして二つの相反する魔力が無理に重ね合わされたことで反発し、荒ぶり始めます。
そうして生まれたエネルギーも含めて、サティーラさんは手を前に突き出し、同時に開放します。
すると、光と闇の魔力は蛇のように荒れ狂いながらティオ君とティアナさんへと向かって突き進んでゆきます。
恐らく、この攻撃を受ければ二人は小さくないダメージを負うことになるでしょう。勝負はサティーラさんの勝ちと見てよさそうです。
「そこまでです!」
私はそう宣言し、戦いの場に割って入ります。
ティオ君とティアナさんへと目掛けて飛んできた魔法の前に立ちふさがり、私の魔力を正面に展開。
すると、光と闇の荒れ狂う魔力が、まるで霧にでもなったかのように散り、消滅します。
「何をッ!」
「この勝負、サティーラさんの勝利です。第二関門突破、おめでとうございます」
私が言うと、渋々納得したようにサティーラさんは頷きます。





