12 風帝と氷結姫
先に動いたのはサティーラでした。
「一瞬で終わらせるッ!」
そう宣言すると同時に、両手をティアナさんとティオ君へと翳します。
そして発動させたのは、無数の光の攻撃魔法。まるでレーザーか何かのように、光の筋が幾つも発射されます。
ですが、これにも慌てず、二人は冷静に対処します。
「そんなの」
「効かない」
二人は言って、魔導セイバーを握っていない方の手を攻撃魔法に向けて翳します。
すると不思議なことに、光の攻撃魔法は明後日の方向へと逸れていきます。
「何ッ!」
驚きを隠せないサティーラさん。それもそうでしょう、この技術もまた、乙木商事が開発した装備あってこそのものですからね。
ティアナさんとティオ君が手に装備していたのは、大きな魔石をセットしてある手甲です。この魔石を通して魔力を流すことで、防御フィールドのようなものが展開されます。
このフィールドは、単に魔法を打ち消すような効果ではありません。相手の魔力に干渉することで、その軌道を逸らしてしまうという効果があります。
打ち消しでも障壁でもなく、単に軌道を逸らすだけなので、非常に低コストながら高い効果を発揮します。
実際に、サティーラさんの魔法すらあっさりと曲げてしまいました。
驚くサティーラさんに向かって、ティアナさんがまず迫ります。その後ろに続いてティオ君。
まずはティアナさんがサティーラさんに接近し、剣を一閃します。
「こおって」
「この程度ッ!」
鋭いティアナさんの剣閃を、サティーラさんは魔力を集めた手甲で弾いて防ぎます。
しかし、接触さえすればティアナさんの剣閃は効果を発揮します。
「なっ!」
なんと、サティーラさんの手甲がたちまち凍りついていきます。
ティアナさんの魔導セイバーは氷属性。非常に高い魔力圧のお陰で、属性の特徴がよりはっきりと発現しています。
その結果、斬りつけた相手を氷の魔法で凍らせるという効果が発揮されるようになっています。
ティアナさん自身も同様の効果の魔法を発動させているので、相乗効果により強烈な氷結効果を発揮します。
この相手を斬りつけた途端に凍らせていく魔法があるからこそ、ティアナさんには『氷結姫』という二つ名が付いたのです。
「面妖なッ!」
片腕の凍ってしまったサティーラさんは、即座にティアナさんの斬撃の効果を理解したようです。
二度、三度と続くティアナさんの攻撃を、受けることなく確実に回避していきます。
しかし、凍ってしまった腕と受け流しが出来ないという制限の為、サティーラさんの方が不利。どんどん追い込まれてゆきます。
そうして十回程度の剣閃を回避した段階で、不意にティアナさんが後退します。
ここで前に出てきたのがティオ君。
「ふきとべ」
ティアナさんとは違い、風属性の魔導セイバーを振るうティオ君。
その剣閃もまた、もちろんサティーラさんは回避します。即座に後退し、軌道から逃れます。
ですが、それでは不十分。
「ぐぅッ!」
攻撃をたしかに回避したはずのサティーラさんは、なぜか身体中に浅い切り傷を負います。
これこそが、ティオ君の魔導セイバーの効果。剣閃と同時に風の攻撃魔法を放ち、相手をかまいたちで切り刻みます。
これもまた、魔導セイバーから放たれるものと、ティオ君自身が放つ魔法の相乗効果により、強力なかまいたちが放たれています。
ただ、それにも関わらずサティーラさんが負ったのは浅い切り傷のみ。それだけサティーラさんの魔力が高く、魔法攻撃に対する抵抗力が優れているのでしょう。
とはいえ、ダメージを負っているのは事実。続けて二度、三度とティオ君が魔導セイバーを振るう度に、サティーラさんは傷を負い続けます。
このかまいたちを飛ばすことによる制圧力から、ティオ君は『風帝』という二つ名で知られる冒険者となったのです。
一挙連続投稿、三日目終了です。
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