08 涼野美沙と木下ともえ
相手の動きが止まった今こそ、魔法攻撃の要である涼野さんの出番となります。
「いくよっ!」
タイミングを見計らい、涼野さんは攻撃魔法を放ちます。
同時に真山君と仁科さんは後退。巻き込まれないように下がります。
涼野さんが放ったのは、風の魔法。刃のように鋭くなった風が竜巻のように荒れ狂う攻撃魔法です。
が、今回は殺しは無しの勝負ですので、刃ではなく風の礫が舞っているようです。
巨大な竜巻が、身動きの取れない前衛を巻き込み、さらには後衛にまで及んで荒れ狂います。
「ぐわぁああッ!」
「ぼ、防御をッ!」
「駄目だ、間に合わない!」
それぞれが異なる悲鳴を上げながら、風の暴力に巻き込まれ、次々と吹き飛ばされてゆきます。
無数の風の礫に身体中を打たれて、巻き込まれた者たちの殆どがダウンしてしまいます。
それでも立ち上がる余裕のある者も居ましたが、涼野さんはさらに追撃を仕掛けます。
「『動くな』っ!」
涼野さんがそう宣言した瞬間。魔法を受けたにも関わらず立ち上がろうとしていた者たちが、例外なく身動きを止めてしまいます。
「な、何が」
意思に反して身体が止まってしまう奇妙な現象に、エリート兵達は困惑します。
これこそが、涼野さんのスキル『魅了魔法』を戦闘に生かした結果です。
魅了魔法は、ある程度の魔力を持つ相手には途端に掛かりにくくなります。
だから、そこを解消する為に攻撃魔法と共に魅了魔法を解き放ち、相手の身体に無理やり叩き込むのです。
そうすることで、一時的ではあるものの相手に『魅了魔法』の効果が及ぶようになります。
今は、まさにその『魅了魔法』を使い『動くな』と命令を与えた結果、エリート兵達が立ち上がれなくなったというわけです。
そんな涼野さんの、現在のステータスは以下のとおり。
【名前】涼野美沙
【レベル】39
【筋力】C
【魔力】B
【体力】C
【速力】C
【属性】風
【スキル】魅了魔法
ステータス的には、Bランクの冒険者相当ですが、魅了魔法を攻撃魔法に込めて放つという特殊技能が評価され、真山君や仁科さんと同様にAランク冒険者としてギルドから評価されています。
「ぐうぅっ、まさかここまでとはッ!」
エリート兵達の指揮官、リーダーらしき天使がそう呟き、悔しさを表情に顕にします。
そんな彼の背後に近づく影が一つ。
「そのとおり、『ここまで』ですよ」
そう言って、鋭い短剣をリーダーの首筋に当て、命を取る寸前で動きを止めたのは勇なる翼の遊撃役。『暗殺者』スキルを持つ木下さんです。
この『暗殺者』というスキルは、『隠密』や『隠蔽』、『気配遮断』などと言った、複数のスキルが複合されている複合スキルです。
一つ一つは一般的に存在するスキルであるため、チートスキルの複合スキルである『勇者』や『聖女』等には劣りますが、高い汎用性と性能を誇るスキルであるのは事実です。
今回の動きも、涼野さんの攻撃魔法に全員の意識が向いた瞬間に、複数のスキルを使い気配を消し、相手の背後に回りました。
そして気配を消したまま大将であるリーダー格の天使へと近づき、『暗殺者』という名にふさわしい動きで相手を制したのです。
そんな木下さんのステータスは以下のとおり。
【名前】木下ともえ
【レベル】46
【筋力】B
【魔力】C
【体力】B
【速力】A
【属性】闇
【スキル】暗殺術
闇属性の魔法には姿を隠したり、気配を誤魔化したりするような補助的な魔法がたくさん存在するため、スキル『暗殺術』との相性も非常に良いと言えます。
ステータスも含めて、正にアサシンとも呼ぶべき素晴らしい適正の持ち主です。
「どうなさいますか? このまま続けます?」
「い、いや。参った」
木下さんに問われて、リーダー格の天使は両手を上げて降参します。
こうして無事、勇なる翼による第一関門の戦闘は終了。勝利という形で終わりました。
一挙連続投稿、二日目終了です。
もし宜しければ、ブックマークと評価ポイントの方を頂けると助かります。
また、ページ下部には今回の一挙連続投稿作品へのリンクも用意してありますので、是非そちらからお楽しみください。





