07 仁科雪
飽和攻撃、と呼べるほどの数の魔法が、仁科さんへと向かって飛んでゆきます。
しかし、仁科さんは一切慌てていません。
「『魔法無効化』ッ!」
そう宣言すると同時に、盾を構えます。
そして仁科さんへと集中し、直撃する寸前になって、無数の魔法攻撃はまるで煙のように霧散して消滅しました。
「な、なんだッ?」
エリート兵達は見事に意表を突かれ、驚いていますね。
しかしすぐに気を取り直し、前衛の兵士達が一斉に仁科さんへと近寄ります。
この間も、当然真山君の射撃による援護があるので、これを潜り抜けられた数名だけが仁科さんへと接近出来ました。
通常、タンク役というのは体力が高い場合は魔法攻撃の耐性は高くないのが一般的です。
そして魔法攻撃に強い場合はその逆。つまり、魔法か物理、どちらかが弱点となる場合が多いのです。
そして仁科さんの場合は明らかに魔法に強かった為、常識的に言えば物理攻撃に弱いはず。
だから、エリート兵達は前衛が接近出来た時点で、勝ちを確信していました。
しかし、残念ながらそうはなりません。
「くらえッ!」
「ふんっ! 『魔法無効化』ッ!」
一人の兵士が攻撃を繰り出し、これを仁科さんが盾で防ぎます。
また、同時に『魔法無効化』を発動。
「なっ! ち、力が」
「ハァッ!」
突如、力が抜けたようにガクリ、と身体を揺らした兵士を、仁科さんは盾越しに体当たりをして吹き飛ばします。
これこそが、仁科さんの真骨頂。『魔法無効化』を、相手に掛けることによるバフの無効化です。
通常、ある程度の魔力を持つ者は無意識のうちに戦闘時は魔力による身体強化を多かれ少なかれ発動させています。
これもまた魔法効果の一種であると考えれば、当然『魔法無効化』の対象となります。
そして突如身体強化のバフを失った相手は力が抜けたような感覚に陥り、バランスを崩すことで簡単に弾き飛ばされてしまう、というわけです。
「くそがッ!」
「これでも喰らえッ!」
「オラァッ!」
続いて、三人が同時に仁科さんを狙います。一斉に攻撃することで、その圧力で仁科さんを倒そうという魂胆でしょう。
しかし、残念ながら仁科さんはこの程度ではびくともしません。
「甘いわよッ!」
ガキンッ、と音を立てて、仁科さんの盾が三人の同時攻撃をあっさりと受け止めます。
想定以上の仁科さんの防御能力に、目を見開く三人のエリート兵士達。
それも当然。仁科さんのステータスはこのようになっているのですから。
【名前】仁科雪
【レベル】48
【筋力】A
【魔力】C
【体力】A
【速力】C
【属性】氷
【スキル】魔法無効化
そう、ステータス的には完全に物理型のタンクなのです。
むしろ魔法攻撃をスキルで無効化している為、魔力の伸びの方が悪いぐらいです。
どうしてここまで筋力と体力が伸びたのか。その理由を以前聞いたことがあります。
その時の答えは『沙織に抱きついても、最近はすぐに剥がされるから。そうならないように努力したのよ』とのことでした。
確かに聖女である三森沙織さんのステータスはSに届いています。そんな相手に抱きついて剥がされない、という訓練をしていれば体力と筋力が伸びるのも当然でしょう。
ただ、なぜそんな形式で訓練をしているのかは謎ですが。
「吹き飛べッ! 『魔法無効化』ッ!」
仁科さんは再び『魔法無効化』を発動し、三人のエリート兵を同時に吹き飛ばします。
「くそっ!」
「まだまだ! 凍れッ!」
さらに追撃として氷の魔法を発動。破壊力よりも、相手の動きを阻害することを目的とした魔法です。
広範囲の敵の身体を凍らせ、凍えさせて身動きを取りづらくする魔法。これにより、ただでさえ真山君に制圧されていた前衛がさらに動きを制限されてしまいます。
前衛が制圧されたことで、真山君の射撃は後衛の魔法を阻害するのに集中出来るようにもなりました。
もはや、攻撃を受けるばかりのエリート兵士達。攻める余裕すら無いようです。





