03 防衛ゲーム
「我々、乙木商事は皆さんを迎える準備があります。ですが、殺しは無しでいきましょう」
「何故じゃ?」
「重要なのは勝ち負けであり、相手を屈服させること。お互いに相手を殺すことが目的ではないでしょう? であれば、勝敗が決まれば殺し合うまで戦う必要は無いはずです」
「じゃが、殺さねば言うことを聞かぬ可能性もあるじゃろう?」
「ええ。ですから、ゲームにルールを設定するのです」
私は、考えてあったルールの詳細を告げます。
「この乙木ビルには、地下最深部に最も重要なサーバー、言うなれば乙木商事の心臓とも言える施設があります」
「それを言っても良いのか?」
「構いません。皆さんには、そのサーバールームを目指して乙木ビルの地下を侵攻していただきます」
「自ら明け渡すつもりかえ?」
「いいえ。これで終わりではありませんよ」
ここからが、今回の提案、ゲームの本質的な部分です。
「サーバールームまでの道のりには、七つの関門を用意してあります。それぞれの関門にて、我が乙木商事自慢の戦力を携えた戦士たちが皆さんの妨害を致します」
「ほうほう、つまり妾たちはその関門とやらを倒し、突破せねばならぬ、と?」
「そういうことです」
納得がいった、という様子でヴラドガリアは頷きます。
「そして、皆さんをサーバールームまで到達させずに撃退出来れば我々の勝利。そちらがサーバールームに到達すれば、ヴラドガリアさんの勝利ということになります。そして敗北した側は、勝利した側の要求に従わなければならない」
「なるほど。そのような状況であれば、もし汝らが約束を反故にしようものなら、その場で暴れてお主らに大きな損害を出すことが可能となる、ということじゃな?」
「はい。それが、我々が約束を守ることを保証する要素になるかと」
私の提案に、ヴラドガリアさんは考え込むような仕草を見せます。
ですが、次に返答をしたのはヴラドガリアさんではなく、サティーラさんでした。
「魔王様。このような提案、受ける必要はありません。力づくで全てを蹂躙し、破壊し尽くしてやれば良いのです」
サティーラさんの主張は、私が最も恐れていたものでした。
仕方有りませんね。ここは一つ、脅しにかかるしかないようです。
「本当に、それで良いのですか?」
「なんだと?」
私に言われて、不機嫌そうにサティーラさんが睨み返してきます。
「人間風情が調子に乗るなよ」
「そうですか。しかし、私としましては、そちらにとっても良い提案が出来たと思っているのですが。何しろ」
そこまで言って、私はこれまで隠していた私の魔力も、それこそヴラドガリアさんがやったように開放し、堂々と見せつけてやります。
「な、なんだとッ!」
「ブラドガリアさん以外の皆さんとは、これだけの力の差があるのですから。正面から戦うともなれば、勝ち負けがどうなるにせよお互い少なくない犠牲を出すことになってしまうでしょう」
私の魔力量に驚いているのか、サティーラさん、そして後ろの天使族の皆さんが焦り、緊張した様子を見せています。
レオニスさんは表面にこそ出していないものの、無闇に争うべきでは無いと理解できたのでしょう。黙って事の行く末を見守っています。
そして、私の魔力も見て決断出来たのでしょう。ようやくヴラドガリアさんが口を開きます。
「分かったのじゃ。汝の提案を受け入れよう」
「魔王様ッ!」
「黙るのじゃ、サティーラ。ここで戦えば、お主らは間違いなく死ぬぞ」
「それぐらいは、覚悟の上ですッ!」
「それが無意味じゃと言っておるのじゃ」
どうやら、ヴラドガリアさんはこちらの提案を受け入れて下さるようです。
「もしもこれが罠だとしても、妾の力であれば罠ごと食い破ることも出来よう。しかし、力だけではお主らを守ることは出来ぬ。そして国を動かすには、お主らの力も必要じゃ」
「魔王様っ」
「ふむ。所詮は人間、と侮って配下を連れてきたのは失敗であったな」
どうやら、無事作戦は成功したようです。
こうして圧倒的な実力差を見せつけることで、配下の命を実質的な人質に取る。そうすることで、お互いの損害を最小限に抑える戦いがようやく成立しました。
「さて、人間よ。乙木、と言ったかえ? お主の提案、受け入れよう」
「ありがとうございます。それでは、ご案内しましょう。まずは、第一関門の方に挑戦していただきます」
ヴラドガリアさん達を先導し、乙木ビルの中へと招き入れます。
これで作戦の第一段階は無事成功しました。
この調子で、残りの作戦も無事成功するよう尽くしていきましょう。





