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34 かつての自分




 翌日、涼野さんはウェインズヴェールに向かって出発することとなりました。乗合馬車は使わず、乙木運輸の配送車に同乗する予定です。

 さすがに、今の涼野さんはかなり見窄らしい外見をしていますからね。そのまま乗合馬車に乗ってしまうと、何かしらのトラブルに巻き込まれる可能性もあります。

 ウェインズヴェールで再就職が叶うまでは、きっちりとフォローしてあげましょう。


 そして、以上の経緯を私は有咲に伝えました。

 かつての友人でもあったはずですから、一応は気に留めていたのでしょう。話が上手くまとまったことを知って、安堵しているようでした。


「美沙、ちゃんとやり直せるんだね。良かった」

「やっぱり、友達のことは気になってたのか?」

「うん、まあそれもあるけどさ」


 言うと、有咲は複雑そうな表情を浮かべて話します。


「もしかしたら、アタシも美沙みたいなことになってたかもって思ってさ」

「有咲が?」

「うん。アタシにさ、もし雄一が居なかったら。雄一があの時、アタシのことを助けてくれなかったらって思うと、やっぱり他人事には思えなかったから」


 確かに、有咲もまた、たった一人で放り出されていました。あの時、私が有咲を偶然見かけていなければ、かなり苦しい境遇に追い込まれたはずです。


「だから、美沙のやること、駄目なところがさ。かつての自分にダブって見えて、ずっと気になってたんだよね」

「そうだったんだな。ならやっぱり、助けたのは正解だったかな」

「そだね。さすがにあのまま美沙が貧乏で苦しんで死んじゃったりしてたら、後味悪いし」


 結果として、有咲の懸念もまた解消出来たのですから。一石二鳥、といったところでしょう。


「それと、改めてアタシ、恵まれてるなって思った」

「そうなのか?」

「だって、雄一にずっと守られて、大切にされて。今は、まあ、ちょっとアタシ以外のお嫁さんが多すぎるけど、ちゃんと愛してくれてるって分かるし」

「でもそれは、有咲が自分で頑張ったから手に入ったものだよ」


 私が言うと、有咲は首を横に振ります。


「アタシが頑張るきっかけを作ってくれたのが雄一だから。ずっと昔、アタシが小さい頃に雄一と出会えたから。それが巡り巡って、アタシのダメな所を直すきっかけになった。雄一と一緒にいたいから、頑張れた」


 そこまで言うと、有咲は私の方へと近寄り、頬にキスをします。


「ありがと、雄一。それと、これからもよろしくね」


 私は、微笑みながら返事をします。


「ああ。こちらこそ」


 そして有咲を抱きしめて、キスを返します。



 有咲の言う通り、たしかに有咲は恵まれていたのでしょう。

 偶然とは言え、私と出会えた。そして変わるきっかけを手に入れ、実際に変わることが出来た。

 ですが、その偶然を加味しても、やはり有咲の今は有咲自身が頑張ったからこそのものだと思います。


 そして有咲が恵まれているのと同時に、私も恵まれています。

 有咲と出会えたからこそ、今こうして、愛する人を腕の中に抱きしめていられます。今日に至るまでのあらゆる困難が、有咲と出会えたからこそ乗り越えられたのだとも思っています。


 もしも出会うことがなかったら。私も、有咲も、涼野さんのように、取り返しのつかない失敗をどこかで犯していたかもしれません。

 だからこそ、彼女を見捨てる気にはならなかった。どこかで何かの歯車が違えば、きっと涼野さんもああはならなかっただろう、とどこかで思っていたのですから。


 そして涼野さんが今日、やり直そうと足を踏み出したように。私と有咲は出会い、様々なめぐり合わせの結果、二人一組で歩き始めました。

 それはとても奇跡的で、かつかけがえのないものなのだと、改めて思います。


 これからも、有咲と共に。

 未来に向かって、二人三脚で歩いて行こう。と、強く思います。

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