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28 侮辱と怒り




 すべての説明を終えた後、松里家君は頭を下げます。


「すみません、乙木さん。問題のある人物だとはわかっていたんですが、最初から私の判断で無視するのもどうかと思い、誘ってしまいました」

「いえ、大丈夫ですよ。私も、同様にチャンスは与えてあげようと考えていますから」

「は? チャンス? 何様だよオッサン」


 私の言葉が気に食わなかったのか、涼野さんは苛立った様子で声を上げます。


「失言でしたね。申し訳ありません。ともかく、貴女を雇うこと自体については問題ありません」

「あっそ。で、どんぐらいお金くれるの?」

「最初は研修から始まりますからね。一般的な労働者の、新人に支払う程度のものになりますよ」

「そんなん絶対遊べないじゃん。無理無理。ふざけてんの?」

「能力を示せば、それに応じて給料も上がりますよ」

「ちっ、めんどくせーな。わかった分かった」


 了承しながら、涼野さんが僅かに怪しい笑みを零します。それを私は見逃さず、念押ししておきます。


「ちなみに、ですが。当然、貴女のスキル『魅了魔法』を使うことは禁止します」

「はぁ? ふざけんなし。意味分かんないんだけど」

「そもそも、他人に精神汚染系の魔法を使うのは違法行為ですからね。もう貴女は特権階級ではありませんから。そんなことをすれば、すぐに捕まって牢屋行きですよ」

「くそかよ。死ねバーカ!」


 今度こそ、本気で嫌がっている様子で表情を歪める涼野さん。それを見て、有咲が真剣な表情で口を開きます。


「ねえ美沙。悪いことは言わないから、真面目に働いた方がいいよ」

「は? 有咲、あんた何言ってんの?」

「世の中、美沙が思ってるほど甘くないからな。魅了魔法なんて使ったら逮捕されるのも本当だし、真面目に働かないと生きていけない。もう昔みたいに、遊んでばっかいられないんだよ」

「なにそれ、ウケる。有咲、あんたバカになったんじゃない?」


 残念なことに、有咲の忠告は涼野さんには全く響いていない様子。

 それどころか、有咲に向かって侮辱するような言葉を口にします。


「そもそもさ、何様のつもりでウチに口出ししてるわけ?」

「これでも、アタシは乙木商事の会長補佐だから。雄一の次に偉いし、その分責任もある。注意ぐらいはするよ」

「は? なにそれ。意味分かんない」


 呆れたような表情を浮かべた後、すぐに涼野さんは何かに気づいたような表情を浮かべます。


「あー、そういうこと。おっけ、分かったわ」

「何がだよ」

「有咲さ、そのオッサンと寝たんでしょ? それでいい思いして、調子こいてるわけだ」

「美沙。ふざけたこと言ってると、怒るよ」

「怒んなし。ホントのことじゃん?」

「まるで有咲が枕営業で今の地位に居るような言い草ですね。それは違いますよ」


 私も、さすがに有咲をここまで馬鹿にされて黙っているわけにはいきません。二人の口論に口を挟みます。


「有咲は自分で努力して、勉強して、仕事をして。貴女が嫌がっているようなことを地道に、真面目に続けて、そして実力を証明した結果ここに居ます。決して不埒な手段で会長補佐の座に就いたわけではありません」

「あっそ」


 私の反論を信じていない様子で、涼野さんはニヤニヤ笑いを止めません。


「じゃあさ、オッサン。有咲からウチに乗り換えない? ウチの方が経験豊富だし、絶対めっちゃ気持ちいいよ?」


 その言葉で、ついに堪忍袋の緒が切れたのでしょう。

 有咲が席を立ち、そして涼野さんの前まで迫ってから。

 パァンッ! と、甲高い音を立てながらビンタを叩き込みました。


「ふざけんじゃねーよ」


 怒りに震える有咲。その感情の強さが、声色からもはっきりと分かります。

 ビンタを受けた涼野さんの方は、信じられないような表情を浮かべた後、すぐに有咲の方へと睨み返します。


「ちっ、なんだよ。マジになってんじゃねーよ。こんなキモいおっさん、こっちだって抱かれたくねーんだよ」

「雄一のこと、馬鹿にすんな」

「はぁ? 何、アンタ、こんなおっさんにマジになってんの? キモっ、趣味悪いわ」


 吐き捨てるように言うと、涼野さんは有咲へとビンタをやり返します。

 しかし、残念ながら有咲の方がステータスが優れており、身体能力に格差があります。たやすく受け止められ、ビンタは失敗しました。しかも、腕はそのまま有咲によって掴まれ、拘束されてしまいます。


「クソッ」

「もうやめな。とりあえず、謝れよ」

「あー、そうですか。ウチが悪かったよ、これでいいんだろっ!」


 完全に、形だけですが、涼野さんの口から謝罪の言葉が出ました。それを認めて、有咲は手を離します。

 すると、涼野さんはイライラした様子を隠そうともせず、早足で会議室から出ていきます。

 その様子を見送った後、私は有咲を後ろから抱きしめ、声を掛けます。


「ごめんな、有咲。つらい思いをさせた」

「ううん。アタシこそ、我慢できなくてごめんね」

「いいよ。むしろ、俺の代わりに怒ってくれてありがとう」

「うん、雄一のこと、馬鹿にされて、許せなかったから」


 そうして、波乱もあったものの。有咲を慰めつつ、この日の話し合いはここで終了することとなりました。

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― 新着の感想 ―
[一言] うーん、このコマ必要だったのかな? 普通に能力なり意思なりを封じて豚箱ぶち込んでおくべき人材では… 本人にやる気さえあるなら、違法にならない程度に広告看板とか化粧品に 魅了を付与するみたいな…
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