27 問題児、涼野美沙
松里家君に涼野、有咲に美沙と呼ばれた少女。どうやら声に気づいたのか、驚いたような表情を浮かべ、有咲さんの方を向き直ります。
「あれ? 有咲じゃん、久しぶりぃ」
「うん、久しぶりだな、美沙」
旧友に再会したかのような、涼野さんの反応。けれど一方で、有咲さんはどこか気まずそうにしています。
ここは空気を読んで、私が会話に入りましょう。
「涼野さん、と言いましたね。話は松里家君から聞いているんですよね?」
「あ? なに、このおっさん。誰?」
「バカかお前は! この人が雇用主の乙木さんだッ!」
「あー、そなんだ」
叱りつける松里家君。それで納得したのか、涼野さんは頷きます。が、どこか気怠げな態度については改める様子がありません。
「そんじゃあ、このおっさんがウチのこと雇ってくれんだ?」
「そうなる。だから態度を改めろ涼野!」
「は? 知らねーし。オカマは黙ってろよキモいな」
松里家君に向かって失礼なことを言いながら、涼野さんは私の方へと近寄ってきます。
そしてすぐ横まで歩み寄ってから、行動に出ます。
「そんじゃあ、宜しくねぇ」
ニンマリ笑う涼野さんは、何かのスキルを発動した様子でした。
その力が発動したのか、魔力が私に向かって流れ込んできます。身体の中に入り込み、良くない働きをしようとしていたので、私も魔力を高めるような意識をして抵抗します。
すると、涼野さんに送り込まれた魔力は霧散し、消失しました。
「それじゃー、おっさん。後はよろしくぅ~」
「何をですか。それよりも、何をしたのですか?」
私が何事もなかったかのように冷静につぶやくと、涼野さんは驚きます。
「え、マジ? おっさんに抵抗出来たんだ。めんどくさ」
「涼野ッ! お前、スキルを使ったのかッ!」
「いーじゃん、別に。そんなんウチの勝手でしょ」
「やめろと言っておいたはずだぞッ!」
「事情が読めないのですが。松里家君。これはどういうことですか?」
涼野さんと争う松里家君に、私は説明を求めます。すると、松里家君はここで冷静さを取り戻し、一息ついてから口を開きます。
「すみません、乙木さん。つい冷静さを欠いてしまいました。では、この涼野美沙がどういう経緯でここに来たのかからご説明いたします」
そうして、松里家君から説明されたのは、予想だにしない内容でした。
まず、この涼野美沙という少女ですが、最近まではとある貴族の子飼いの勇者として活動していたのだとか。
そして、女神から与えられたチートスキルは『魅了魔法』。異性を魅了の魔力で支配、洗脳し、自分の思うがままに動くように変えてしまう魔法だったのです。
ただ、この魅了魔法。使い所は非常に難しいものでした。まず、支配できない相手が普通に存在します。
一つは、魔力で自分より勝る相手。つまり自分よりも強い相手は基本的に支配できません。
また、何らかの精神汚染に対する耐性があるスキルがある場合も支配不可能となります。
しかし、状況によっては例外もあります。それが性行為やキスなど、性的な身体接触を伴いながらの魅了魔法の行使です。
長時間、濃厚に性的接触を行うことで、相手の耐性や魔力のギャップを無視しての支配が可能となります。時間が長く、性的接触がより濃厚であればあるほどその程度は強くなります。
その性質を利用し、涼野さんはとある貴族の下で『接待』役として働いていたのだとか。
お陰でその貴族は多数の商会の有力者を自身に都合よく支配し、急激に勢力を拡大してきたのだそうです。
ただ、涼野さんはやりすぎました。支配により得た権力を私利私欲の為に使い、やりたい放題に遊びたい放題。結果として損失があまりにも大きすぎると判断され、最終的には放逐。再び王宮で身分を預かることになったそうです。
そうして王宮内にてほぼ軟禁状態で生活していた所で、松里家君がこちらの勢力に組み込めないかと考え、声をかけた。
そして呼びかけに応じ、涼野さんはこちらに顔をだした、という流れだったのですが。
その後のことはすでに起こったとおり。なんと、涼野さんの魂胆は私を魅了魔法で支配し、その資産で好き放題遊び呆けることだったというわけです。





