24 乙女の祈り
挙式、という思わぬ角度からの問いに、私は想定していた内容を正直に答えます。
「挙式ですか。実は有咲ともやっていないので、今回もささやかな披露宴を身内だけを集めてやるつもりですが」
「そんなっ! それでは私の夢はっ! 華やかな結婚式を、花嫁衣装を着て、乙木殿と大聖堂で上げるという夢はどうなるのだっ!」
「そ、そんな夢があったのですね」
困りました。有咲はもちろん、マリアさんにシャーリーさん、そしてジョアン君もかなり現実主義的です。式は最低限、お世話になった人への感謝を伝える程度のものでいいという考えで一致していました。
まさか、マルクリーヌさんが誰よりも花嫁らしい花嫁にあこがれていたとは。
「それに、住む場所はどうするのだっ! まさか今までどおりとは言うまいっ?」
「あの、今までどおりの場所に住むつもりでしたが」
「そんなバカな話があるかっ! 夫婦になったのなら、広い庭園と大きなお屋敷に沢山の使用人っ! 人目も憚らずにイチャイチャできる環境っ! 何より夫婦の営みをするためのロマンチックなベッドルームッ! そういったものが必要だろうっ!」
「あー、そうですね。言われてみればそんな気がしてきました」
マルクリーヌさんの迫力に押され、つい同意してしまいます。
「全く、乙木殿は女心というのが分かっていないなっ! ふんっ!」
「すみません。でしたらこの際ですから聞いておきたいのですが、他にマルクリーヌさんからの要望はありますか?」
「他に、か。そうだな、うーん」
考え込むマルクリーヌさん。そして、私の方をちらちらと見ながら、恥ずかしそうに言います。
「そういえば、一度も、その、乙木殿にしてもらったことが無いなと思って。せめて結婚するよりも先に、そういうことぐらいは経験しておきたいな、という気持ちが」
「えっと、何をですか?」
「き、きききっ、キッスだっ! 乙木殿からキスをしてほしいっ!」
なるほど、そういうことでしたか。
考えてみれば、そういった行為は有咲以外とは一切やっていません。
婚前交渉は控えるような感覚だったのですが、たしかにキスぐらいは愛情表現としてあるべきだったかもしれません。
「分かりました。それでは」
「えっ?」
私は席を立ち、マルクリーヌさんの隣へと歩み寄り、そして抱き上げます。
「ひゃっ!」
ちょうど、お姫様抱っこと呼ばれるような姿勢です。マルクリーヌさんは小さな悲鳴を上げ、顔を赤くします。
「今まで、すみませんでした。これからは、不満に思わせないように気をつけていきますから」
言うと、私はゆっくりとマルクリーヌさんに顔を近づけ、そしてキスをしました。
触る程度の優しいキスで、時間も短くすぐに離れます。が、それでも刺激が十分に強かったのでしょう。マルクリーヌさんは、茹で上がったかのように顔を真っ赤にして恥ずかしがっています。
「ううっ、その、乙木殿」
「はい」
「いきなり、ちょっと無理やりっぽいのは、その。嫌いではない、かもしれない」
声色に喜びが隠せていないので、どうやら満足はしていただけた様子ですね。
とりあえず、これでマルクリーヌさんも無事納得してくれたはずです。





