21 重婚
私が娶らねばならない、責任を取るべき女性は数多くいます。
マリアさんとシャーリーさんは、これまでの私の行動から、世間的には私の嫁になるものだと思われています。
もし結婚をしなかった場合、お二人は行き遅れた、捨てられた女性という評価を受け、社会的な立場が悪くなり、次の縁談にまで響いてくるでしょう。
マルクリーヌさんもまた、私が責任を取るべき女性の一人です。本人が完全にそのつもりであり、おそらくは結婚を前提にしているからこその協力が得られた場面も多々あったはずです。ここに来て裏切るわけにはいきません。
それに、おそらくはマルクリーヌさんもまた、王宮内ではマリアさんやシャーリーさんと同様、私と籍を入れるものだと認識されているはずです。そういった面でも、見捨てるわけには行きません。
そして、ジョアン君です。私と結婚するためだけに、女性に性転換してしまった少年。ジョアン君自身が女性になりたかったわけではない、というのが非常に大きく、重い部分です。男性である、という自分自身のアイデンティティを捨てているのですから。
そこまでの選択をさせておいて、見捨てるというのはあまりにも無慈悲です。となれば、籍を入れるという形で報いてあげるべきでしょう。
他にも私に対して好意を寄せる女性は居るかと思いますが、現状で責任を持つべき女性はこの四人になるでしょう。
そうした事情を、ジョアン君に説明し、ジョアン君とだけ結婚するわけにはいかないことを納得してもらいました。
「わかったよ、おっちゃん。俺のこと、大切にしてくれるなら、四番目でも五番目でもいいよ。お嫁さんにしてくれるんだよな?」
「はい。こうなれば、責任を取る他ありませんからね」
「うれしいっ!」
かなり消極的というか、前向きとは言い難い形での結婚にはなりますが。それでもジョアン君には十分らしく、喜んで私に飛び付き、抱き着いてきます。
「よかったな、ジョアン」
「うんっ! ありがとう、勇樹ねえちゃん!」
「僕の分まで、幸せになるんだぞ」
優しげに微笑む松里家君。その笑みの中には、どこか寂しさも含まれているように感じました。
松里家君も含め、召喚勇者は人間ではありません。なので、人間を対象にした性転換魔法では女性にはなれません。
それはつまり、松里家君がどれだけ頑張っても、私と入籍する、という未来はありえないということになります。
そういった面を考えると、松里家君の心情もそれとなく察しが付きます。
恐らくは、自分と似た悩みを抱え、しかし自分とは違い解決可能であったジョアン君。だからこそ共感し、同情し、助けてあげたいと思ったのでしょう。
「さて、乙木さん。ジョアンの性転換については理解していただけたようですが。そもそも、何の要件でこちらにいらしたんですか?」
「ああ、そうでした。実はですね」
松里家君に促され、私はそもそもの目的について話し始めます。
乙木商事という名の会社を立ち上げたこと。事業ごとに子会社を作り、それぞれ別の責任者に管理してもらうことにしたこと。
そして運送業、警備業についてはジョアン君に任せようと考えていることも話しました。
「わかったよ、おっちゃん! 俺、一生懸命頑張るっ!」
ぐっ、とガッツポーズをしながらジョアン君は提案を受け入れてくれました。
「ありがとうございます、ジョアン君。では、また近い内に詳細が決まれば、連絡に伺いますね」
「うんっ!」
「なるほど、子会社化でしたら乙木さん。僕の方からも提案があるのですが」
「提案ですか。それはどのような内容でしょう?」
松里家君の提案は、ちょうど私も考えていたことでした。
「よろしければ、金浜組のクラスメイト達全員、正式に乙木商事やその子会社で役職に付けてみませんか?」
「話が早いですね。正にその為もあって、松里家君を訪ねたのです」
「なるほど、さすが乙木さんですね!」
これならば、順調に話が進められそうですね。





